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米国とトリニダード・トバゴの新たな合同軍事演習をめぐり、ベネズエラのニコラス・マドゥロ大統領が2025年11月15日、「無責任だ」と批判した。演習は10月の米海軍艦の寄港・訓練に続く動きで、同政権は麻薬対策を名目にした圧力強化だとみる。大統領は16〜21日の実施期間に合わせ、東部各州での「警戒の継続と行進」を支持者へ呼びかけた。海の向こうの訓練が、隣り合う政治と安全保障の緊張を一段と押し上げている。
演習の呼び水となった近接訓練
発端の1つは、2025年10月26〜30日に米海軍のミサイル駆逐艦がトリニダード・トバゴの首都に寄港し、海兵隊と同国防衛軍が並走訓練を行ったことだ。寄港地はベネズエラ本土から近く、艦の行動は自国の射程圏内に入る挑発だとカラカスは反発した。現地では港での艦内公開や部隊間の知見交換も行われ、交流と警戒が同じ景色の中で交錯した。
その後も関与は続いた。現地政府は11月中旬、米海兵隊第22海兵遠征隊(MEU、上陸作戦や災害対応を担う統合部隊)の再訪を明らかにし、国内各地での夜間訓練やヘリ使用を予告した。米大使館も、長年の防衛協力の延長にある「訓練任務」だと強調し、地域の安全保障や災害対応力の強化を掲げた。近接ゆえの技量向上は、近接ゆえの不信とも背中合わせである。
ベネズエラ側は、スクレ州沖の海域が演習に提供されるとの報を重ねて問題視した。マドゥロ氏は15日、カラカスの集会で今回の演習を「脅威を意図したもの」と位置づけ、国家の威嚇は受け入れないと語った。地理的な近さが、訓練の意味づけを左右する。海図のわずかな距離差が、互いの安全保障観に大きな隔たりを生む。
マドゥロ政権の危機感と動員
15日の演説で同氏は、演習の期間に合わせて東部各州の支持者へ「街頭での寝ずの番と常時の行進」を促した。16〜21日の日程に沿った動員は、外からの圧力を国民的な結束へと反転させる狙いがにじむ。演習が訓練にとどまるか、圧力の前段に映るかで、呼びかけの熱量は変わる。政権は後者の像を前面に置いている。
同政権は一貫して、米国の最近の活動を「麻薬対策」を掲げた体制転覆の策略だと主張してきた。軍艦の寄港や特殊部隊の展開に敏感なのは、過去の政治対立や越境犯罪の現実が背景にあるからだ。内向きには求心力を保ち、外向きには抑止の意思を示す。演説の語調は強いが、動員の中身は継続的な警戒と行進という、長期戦を意識した粘りの構えである。
一方で、市民の暮らしは緊張の度合いに左右されやすい。沿岸の産業や物流は、演習の動線と生活圏が近いほど影響を受けやすいからだ。政権が示す「威嚇には屈しない」という姿勢は、主権の誇示であると同時に、日常を揺らがせないという約束でもある。だが、動員は熱を帯びやすく、現場の自制をどう保つかが試される。
米国側の説明と広がる法的懸念
米国とトリニダード・トバゴの当局は、今回の活動を治安協力の深化と位置づける。両国には部隊間の長期的連携があり、医療・災害対応の共同訓練も重ねてきたと説明する。海兵遠征隊の展開は、地域の違法薬物対策や人道支援の即応性を高めるという建て付けだ。現地の受け止めが割れるのは、同じ行為が安全の担保にも、緊張の種にも見える二面性のためだ。
ただ、同時進行する軍事プレゼンスの拡大は別の影を落とす。米軍は空母打撃群や揚陸部隊を含む戦力を域内に投入し、疑われる麻薬密輸船への攻撃で死者が出たとの報道が相次ぐ。数は報道で幅があるが「数十人」に及ぶとの指摘もあり、国際法上の根拠や交戦主体の認定をめぐって専門家や人権団体が懸念を示している。対策の厳格さと法の統制は、常に両輪であるべきだ。
近接する小国にとって、対米協力は治安の実利と地域安定への責任が絡み合う。トリニダード・トバゴが訓練を受け入れる一方で、ベネズエラは主権侵害の予感に身構える。誤算は小さな摩擦から生まれる。透明な説明と事前の調整、訓練の設計と情報公開の丁寧さが、緊張の振れ幅を抑える唯一の堤防となる。
海を挟んだ距離の近さが、政治の距離をいっそう遠ざけているように見える。