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封筒を手にした前橋市の小川晶市長が、25日夕方、市議会議長室を静かに後にした。この日午後、市長は富田公隆議長に退職願を提出し、27日付で職を退く意思を伝えたとされる。部下の既婚男性幹部とラブホテルに十数回通っていた問題が表面化してからおよそ2か月、市政の混乱と批判の高まりのなかでの決断だった。本人は同日夜、Xでも「27日付で退職することを決断した」と記し、自らの行動へのけじめだと説明している。
不信任決議を前に、続投から辞職へと傾いた判断
問題が公になったのは9月だった。小川市長が市役所の既婚男性幹部とラブホテルを複数回利用していたことが報じられ、市民や議会から「市政を混乱させた」との声が一気に広がった。本人はホテル利用の事実と「極めて不適切だった」という認識を示しつつ、男女関係は否定し、打ち合わせや相談の場だったと繰り返し説明してきた。公私の線引きについての認識が問われる事態となり、説明のたびに視線は一段と厳しくなっていった。
それでも当初、小川市長は任期を全うする考えを崩さなかった。2028年2月まで残る任期中は給与を50％減額し、信頼回復に努めながら続投すると表明していたのである。しかし今月、前橋市議会の7会派が連名で辞職勧告書を提出した。議員の約8割が所属する勢力で、市長が27日の定例会開会までに応じなければ不信任決議案を出すと迫り、情勢は一気に辞職圧力へと傾いた。
大分合同新聞などによれば、7会派は不信任案が提出されれば可決される公算が大きいと見ていたという。不信任が通れば、市長は自発的辞職か市議会解散かの二者択一に追い込まれる。その局面を前に、小川市長は25日午後5時ごろ、富田議長に「27日をもって退職する」と記した退職願を提出し、受理されたとTBS系の報道は伝えている。不信任表決の直前で身を引く選択は、市政のさらなる混乱を避けたいとの判断が背景にあったとみられる。
期待を背負った経歴と、揺らいだ信頼のその先
小川市長は千葉県出身で、司法修習を機に前橋へ移り、市内の法律事務所で弁護士として活動してきた。2011年から群馬県議会議員を4期務め、2024年2月の市長選で自民系現職を破って初当選した経歴を持つ。40代前半の女性弁護士出身市長として、子育てや福祉分野への期待も大きかった。その一方で、今回の問題では「部下の既婚男性」との関係に市長という立場からの権力性も指摘され、説明の仕方も含めて信頼が揺らいだ。
小川市長は市民向けの集会や地元FM局主催の場で、出直し市長選になれば再び立候補する意向を示している。任期途中で辞するが「一度市長職を離れ、自らの姿勢を正し、信頼を取り戻すために行動する」とXに書いた言葉は、将来の出馬を見据えたものとも読める。ただ、その際に問われるのは今回の行動そのものだけでなく、説明の過程や部下との関係性をどう見直したのかという具体性だろう。市民の記憶は、選挙のときにも鮮明に残ったままだ。
一方で、前橋市のかじ取りは待ったなしだ。市選挙管理委員会によると、議長が辞職を正式に通知した翌日から50日以内に市長選が行われる見通しだという。市議会は26日午後に各会派代表者会議を開き、次の市政運営や予算審議の段取りを詰めることになっている。夜の市役所に残るのは、急きょ始まる選挙準備の足音と、信頼をどう取り戻すのかを静かに問いかける空気だけである。
