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自民党総裁選のさなか、小泉進次郎氏の陣営で「総務・広報班」班長を務めていた牧島かれん元デジタル相が辞任した。配信動画への称賛コメント投稿を要請するメールが陣営関係者に送られていた事実が判明し、同日中に小泉氏が陳謝。選挙戦の地鳴りのようなネット世論が、現場の運動とどう向き合うべきかを突きつける一件となった。
火種は“コメント例文”のメールから
一連の問題が表面化した起点は、配信動画に「ポジティブなコメントを書いてほしい」と促すメールだった。文面には「総裁まちがいなし」や「泥臭い仕事もこなして一皮むけたのね」などの具体例が並び、受け手に書き込みの方向性を示していたことが確認されている。事実関係について陣営側は認め、小泉氏は「参考例の中に一部行き過ぎた表現があった」と述べて頭を下げた。参考例の作成は牧島氏の事務所の判断だったと説明され、陣営は他候補を攻撃する意図はなかったと強調した。だが、ネット上の書き込みは匿名性や拡散力ゆえに受け手の解釈を選べない。支持の訴えが、空気を誘導する“仕掛け”と映った瞬間、選挙運動の正当性に疑念が生まれる。とりわけ総裁選の議論が可視化される討論会や動画配信の場では、コメント欄そのものが「世論の温度」を伝える窓になる。そこに意図を帯びた例文が介入すれば、透明性の線引きが問われるのは避けられない。
当日の空気は慌ただしかった。午前から問題が広がると、陣営は発信の経緯を点検し、小泉氏は会見の場で陳謝に踏み切った。総裁選の土俵が政策論争の場である以上、炎上の火の粉を早期に払う判断である。候補者本人が「批判は受け止める」と明言したことは、陣営の矛先を外に向けない姿勢の表明でもあった。だが、メールの存在が示したのは、ネット運動の現場が抱える構造的な課題だ。賛同の連鎖を期待して「応援の言葉」を提案する発想は、紙のビラや街頭のコールにも似ている。しかし画面の向こうで交わされる言葉は増幅しやすく、文脈から切り離されて伝わる。政治がネットに接続するほど、発信の倫理と手続きの設計が要るという当たり前の教訓が、改めて突きつけられた瞬間だった。
牧島氏、班長を辞任 陣営の立て直し急ぐ
渦中の牧島氏は、陣営の「総務・広報班」班長を降りる決断を下した。報じられた辞任は問題の舞台がネットであるがゆえに、いっそう速い切り替えに映る。牧島氏はデジタル相を務め、党ではネットメディア局長などを歴任してきた。ネットを活用した草の根の可視化を掲げてきた当人にとって、今回の判断は痛みを伴う。それでも陣営の歩みを政策論争へ戻すには、指揮系統の混乱を最小化し、機能を再配置するのが先決だったといえる。辞任が伝わったのは2025年9月26日 23:41で、同日中に小泉氏の陳謝が出ている。
選対の舵取りには、加藤勝信財務相が選挙対策本部長として加わっている。総裁選の顔ぶれや支持層の広がりを見渡し、陣営の中軸が政策の語り口と組織運動の再点検に踏み出すのは自然な流れだろう。小泉氏は選挙戦を続投する考えを明言しており、議論の主戦場を「ネットの炎上」から「政策の中身」へ戻せるかが問われる。とくに、農政や物価・賃上げの設計図、財政運営の優先順位といった論点は、支持の広がりと批判の受け皿の両面に関わる。ネット発信の是非に関しては「参考例の表現の行き過ぎ」が焦点だが、組織の内部統制、チェックの手当て、現場の判断の幅と責任の所在をどう定義し直すかも、党の再生を語るうえで避けて通れない。
ネット選挙と透明性――“共鳴”を生む作法
選挙運動におけるネット活用は、街頭の握手や電話作戦と同じく、有権者の関心を呼び込むための手段にすぎない。しかし、オンライン空間では「誰が、何のために、どのように」発信しているかという前提が、可視化されにくい。今回のように、陣営が応援のコメント例を“参考”として流す行為は、形式上は自由な意思の表明でも、読み手からは作為の影が濃く映る。透明性を担保するなら、例えば投稿の呼びかけをする際に「陣営からのお願い」であることを明示し、推奨例は他候補や支持者への敬意を前提に設計する必要がある。応援の“共鳴”を生む作法を磨くことは、候補者本人の言葉を強くすることにも直結する。最終的に評価されるのは、投稿の量ではなく、政策の説得力と政治の手触りだ。陣営が今回の反省を具体の運用に落とし込めるかどうかが、総裁選の後を見据えた党再生の試金石になる。
小泉氏の陣営は「他候補を批判する意図はなかった」と説明し、再発防止に努めるとしている。牧島氏の辞任で広報指揮系統は入れ替わる。総裁選の争点は、ネットで交わされる言葉の熱量ではなく、生活者の痛みや期待にどれだけ肉薄できるかにかかっている。今回の一件が、政治発信の基本に立ち返る契機になるかどうか。早い段階での軌道修正が、総裁選の質をも左右する。
