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霞が関の朝は静かだった。2025年10月8日、財務省の一室で、赤木俊夫さんの妻・雅子さんが4回目となる関連文書の束を受け取った。電子データ中心で約2万5千ページにのぼるという。遺されたメールやメモに触れる「はじめて」の感覚がにじむ。記録が増えるほど、改ざんの実相と行政の記憶がどこまで回復するのかという問いが重くなる。
積み上がる記録、埋まらない空白
同日午前、雅子さんは弁護団とともに財務省を訪れ、新たな開示分を受領した。弁護団の説明では、今回は俊夫さん自身や他の職員が残したメール、手控えのメモなどの電子データが中心で、およそ2万5千ページに及ぶとされる。開示は今年4月からおおむね2カ月おきに続いており、財務省と森友学園側の交渉記録、俊夫さん自筆ノートの写しなどが既に渡っているとみられる。
一方で、政治家の関与をうかがわせる資料については欠番になっている箇所が目立つという。籠池泰典元理事長が安倍晋三元首相の妻・昭恵氏との写真を示して交渉した場面に関する記録など、肝心のページが抜けているとの指摘が出ている。なぜ欠番なのか、意図か偶然か——開示が進むほど、空白の理由が問われていると映る。
全体の文書は計約17万ページ規模と整理されている。膨大な紙とデータが積み上がり、事実の輪郭は少しずつ濃くなってきたが、意思決定の核心部分が曖昧なままでは、行政への信頼は戻りきらない。誰に有利な「沈黙」なのかという問いが、受領のたびに浮かぶ。
遺されたメールが語るもの
雅子さんは取材に「まずは夫のメールを見てみたい。夫がつらい思いをしていたことを知れたらいい」と語った。改ざんを苦に2018年に亡くなった俊夫さんの「声」は、すでに手記やノートに残されている。だが業務の現場で交わされたメールやメモは、時間の流れや温度感、ため息のような微細な痕跡を伴って、当時の空気を立ち上がらせる手がかりになりうる。
過去の開示では、決裁文書から政治家名などを削る作業の具体が浮かんだが、誰がどの場面で何を言い、どう迷い、どこで線を引いたのかは、断片の集積からつなぎ合わせるしかない。今回の電子データは、その空白を埋める細部を含んでいる可能性がある。個々のやり取りの文脈が明らかになれば、組織の意思決定の流れも輪郭を増すとみられる。
ただし、メールは個人の感情や推測、未確定情報も含みうる。事実認定には照合作業が欠かせない。開示文書同士の突き合わせに加え、当時の業務規程や決裁フロー、関連会議の記録と重ねることで、どこまでが事実でどこからが解釈なのかを見極める必要がある。検証の丁寧さが、後の評価を左右する。
改ざんの指示はどこから来たのか
改ざん問題の核心は「指示系統」にある。俊夫さんの手記などには、当時理財局長だった佐川宣寿氏の指示をうかがわせる記載が残る。財務省は2018年、改ざん等に関する調査報告書を公表し、決裁文書の管理や修正ルールの見直しを掲げた。さらに政府全体でも、電子的な行政文書管理の強化が打ち出され、財務省は「再生プロジェクト」でコンプライアンスの確保と文書管理の徹底を進めるとした経緯がある。
それでも、今回のように開示が段階的に続き、政治家関連の資料が欠番として残る現実は、制度と運用の間に横たわる溝を示しているように映る。行政文書は国民共有の知的資源であるという原則と、実務上の秘密保全・個人情報保護の要請をどう両立させるか。法が定めた保存・開示の枠組みを前提にしつつ、具体的な判断の透明性が問われている。
開示はゴールではない。欠番の理由説明、メタデータの一元管理、改ざん防止の履歴管理の実効性——一つひとつの改善が、亡くなった一人の職員に報いることにつながる。記録をひらくことは、同じ誤りを繰り返さないという行政の約束のかたちでもある。次の開示までの時間は長くない。検証と説明責任の針路が問われている。
