メタ内部資料が示す“依存性”認識　未成年被害訴訟で新証拠浮上

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2025.11.26

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米カリフォルニア州の法廷で、分厚い書類の束が静かに机に置かれた。そこには、Instagramを「麻薬のようだ」「自分たちはほとんど売人だ」と語るメタ社員の内部メモが含まれていたという。未成年のメンタルヘルスに深刻な悪影響を与えたとして、FacebookやInstagramを運営するメタを訴えた集団訴訟。その争いの只中で、プラットフォームがどれほど中毒性や危険性を自覚していたのかを示す記録が次々と公開されつつある。

社内で語られていた「麻薬」比喩と、原告が見る構図

新たに開示された法廷文書には、メタの社員や研究者がInstagramの依存性を強く意識していたことをうかがわせる記述が並ぶ。社内チャットでは、プラットフォームを「麻薬のようだ」と表現し、自分たちを「売人」にたとえる発言もあったとされる。社員は、10代の利用者が自分の気分や心の状態への影響を十分理解しないまま夢中になり、利用中は不安や落ち込みが悪化し得ると認識していた、というのが原告側の主張だ。

訴訟を担う原告側の弁護団は、メタがこうした危険性を把握しながらも、若年層の利用を拡大する設計を優先したと指摘する。原告には、保護者や子どもを抱える学校区、州の司法長官らが含まれ、ソーシャルメディア各社が「依存性の高い製品」で成長してきた構図を、かつてのたばこ産業になぞらえて批判している。一方のメタは、限られた引用や誤解に基づく告発だとして、社内資料の読み方そのものが偏っていると反論している。

隠された「Project Mercury」と、緩すぎる違反ポリシー

内部資料で特に注目されているのが、2020年に実施された「Project Mercury」と呼ばれる研究だ。メタは調査会社ニールセンと協力し、一部ユーザーに1週間FacebookやInstagramの利用をやめてもらう実験を行った。その結果、利用を止めた人たちは、抑うつ傾向や不安、孤独感、他者と比べて落ち込む気持ちが明らかに低下したと報告されている。社内研究者は、この結果は因果関係を示唆すると述べ、たばこ企業が有害性を知りながら隠した事例になぞらえる声も出ていたという。

ところが、こうした知見を広く公表したり、追加研究やアプリの設計変更に結び付けたりする動きは取られなかったとされる。むしろ社内には「結果は従来メディアのネガティブ報道に汚染されている」として、研究の信頼性を低く見積もる通知が出されたと、原告側は主張する。また、安全・福祉担当の元責任者は、人身売買に関わる恐れがあるアカウントに対し、「17回目の違反でようやく停止の可能性が出る」という異例に緩いストライクポリシーが存在したと証言した。児童性的虐待を通報する仕組みや、未成年アカウントを原則非公開にする提案も、利用時間や成長の鈍化を懸念して退けられたとされ、安全よりエンゲージメントを優先した姿勢が浮かび上がる。

法廷で問われる責任と、利用者に突きつけられた問い

今回の訴訟は、メタだけを狙い撃ちにしたものではない。原告団は、Alphabet（Google）やTikTok、Snapも巻き込み、若年層のメンタルヘルス危機にプラットフォームがどこまで関与したかを問う巨大な集団訴訟に発展している。およそ1800人規模の原告と多数の自治体が、企業側はリスクを認識しながら依存性の高い設計を続け、危険を十分に開示しなかったと主張する。カリフォルニア北部地区連邦裁判所では、2026年1月下旬に重要な審理が予定されており、その行方は各社のサービス設計や世界各地の規制議論にも影響を与えかねない。

同じ頃、アメリカでは未成年の長時間利用に警告表示を義務付ける州法など、新たな規制の試みも進んでいる。例えばコロラド州の法律では、18歳未満のユーザーが一定時間を超えてSNSを利用すると、メンタルヘルスへの影響を警告する表示を求めていたが、業界団体の提訴により、連邦裁判所が「強制された表現」に当たるとして一時差し止めを命じた。表現の自由と子どもの保護という、どちらも重い価値が衝突している構図は、日本を含む各国の議論にも通じる。

もちろんメタは、自社が若者のメンタルヘルス危機を引き起こしたとの非難を全面的に否定し、ペアレンタルコントロールや利用時間の管理機能など安全対策を積み重ねてきたと主張している。それでも、社内研究やチャットが法廷で読み上げられるという異例の事態は、私たちが毎日何気なく開くアプリの裏側で、どのような計算や迷いがあったのかを垣間見せる。スマートフォンの画面を前に沈黙する10代の姿を思い浮かべるとき、その沈黙を生み出した設計の責任が、これからどこまで問われていくのかが静かに試されている。