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三菱重工業が、南フランスで建設が続く核融合実験炉ITERの中核機器「ダイバータ」に用いる構成要素「外側垂直ターゲット」について、量子科学技術研究開発機構から新たに20基の製作を受注した。既受注分とあわせて同社の担当は計38基に広がる。プロトタイプの認証を経て量産段階へとギアを上げる日本のサプライチェーンが、静かに厚みを増している。
受注の中身と見えてきた工程
2025年9月18日、三菱重工は外側垂直ターゲット20基の受注を公表した。これまでの18基に続く追加となり、同社が手がける製作は計38基となる。ITER向けの調達を担う量子科学技術研究開発機構が、実機の試作と現在の製作過程で蓄積された高難度品の量産技術を評価した格好だ。受注の裏には、試験体の性能検証と製造プロセスの確立を重ねてきた時間がある。
外側垂直ターゲットは、ITERに納入される全58基のうち、日本側が調達を一括して担う位置づけにある。設計や品質保証の枠組みは日を追って整い、部品サプライヤーの裾野も広がりつつある。素材、加工、接合の各工程を律速とせず流す体制づくりが、ここにきて現実味を帯び始めた。
量産への地固めは段階的に進んだ。先行企業が手掛けたプロトタイプが認証段階をクリアし、その流れを受けて製作は実機へ移る道筋が整った。長尺材の加工や複雑形状の一体化など、現物合わせを排した高精度製作が前提となるだけに、評価と製造を往復する地道な積み上げが効いている。
ダイバータが受け止める“過酷”
ダイバータは、トカマク型の核融合炉における最重要機器の一つである。炉心で起きた核融合反応が生むプラズマから、燃え残りの燃料や生成されたヘリウム、不純物を抜き続ける。掃除機のように「灰」を吸い出し、プラズマの安定を保つ役回りだ。真空容器の底部に据えられ、放射状に並ぶカセットの中で、外側垂直ターゲットはまさに最前面に立つ。
この最前線に降り注ぐ熱は苛烈だ。ダイバータ表面の熱負荷は最大で1平方メートル当たり20メガワットに達する。小惑星探査機が大気圏へ突入する際の表面熱負荷に匹敵するレベルで、常時その熱を受け止め、冷却し、構造として耐え続けなければならない。過酷さの尺度が違う世界でのものづくりになる。
素材と構造にも厳しさが宿る。プラズマに面する部分はタングステンのブロックを冷却配管に密着させた構造で、脆さと高融点を両にらみで扱う加工が求められる。個々のタイルはわずかな段差や傾きが許されず、角度や面のそろいに0.5ミリという精度が課される。熱と粒子の直撃を受けても性能を維持するために、寸法、表面、接合のすべてでゆらぎを抑え込む設計思想が貫かれている。
日本の布陣、そしてITERの先
ITERは日本、欧州、米国、ロシア、韓国、中国、インドの7極が進める国際プロジェクトで、日本では量子科学技術研究開発機構が国内機関として調達を統括する。外側垂直ターゲットの全58基は日本からの納入で、三菱重工の今回の受注はその中核を担う足場を固めた意味を持つ。製造拠点やサプライヤーは、試作で得た知見を製品化に織り込む段階に入り、品質保証と追跡性の枠組みが製造線に落ちていく。
国内では、先行企業によるプロトタイプが評価を通過したのち、2025年7月には別の国内大手とQSTが組んだプロトタイプも認証試験に合格した。複数のプレイヤーが量産の土俵に上がることで、工程の平準化や自動化の工夫が競われ、サイクルタイム短縮と安定供給の両立に光が差す。高難度構成品の内製比率を高めつつ、必要部材の国際調達も織り交ぜる座組みが、次の段階の作業を支える。
一連の流れは、ITERの据付と立上げだけにとどまらない。量産で鍛えられた設計と製作のノウハウは、将来の原型炉や新興企業の装置へと展開できる。精密位置合わせ、難削材の接合、冷却経路の最適化といった地味だが効く技術が束になって、次の世代の炉内機器を形づくる。今回の20基という数字は、その延長線上にある未来の現場を、ひとつ手前へ引き寄せる合図に見える。