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アブダビの会場に集まる関係者のざわめきのなか、ブラッド・スミス副会長兼社長が口にした数字は大きかった。2023年から2029年までの7年間で、米マイクロソフトはUAEに総額152億ドルを投じる計画だ。米商務省の許可に基づき、同社はエヌビディア製GPUをUAEの自社データセンターに段階的に配備する見通しで、地域のAI基盤を一段押し上げる布石と映る。
152億ドルの中身が示す狙い
2025年11月3日に公表された同社の説明によれば、投資は既に走り始めている。2023年から2025年末までに73億ドル超を支出し、このなかにはUAEのAI企業G42への15億ドル出資、国内の先端AI・クラウド拠点への46億ドル超の設備投資、さらに12億ドル超の現地運営費などが含まれる。数字は示し方だけでなく、用途まで明らかにされた格好だ。
2026年から2029年にかけては、79億ドル超の追加投資が見込まれる。内訳の中心はAI・クラウドのインフラ拡張で、今週アブダビで公表予定の計画も織り込むとされる。人材育成やエコシステムへの関与も柱で、同社はUAEで約1000人規模の陣容を抱え、パートナー企業は約1400社へと拡大していると伝えた。投資は単なる装置ではなく、技術・人材・信頼を束ねる設計に重心が置かれている。
現時点で確認されている範囲では、UAEの生成AI利用率は59.4％と、シンガポールを上回る世界水準にあるという。需要が先導し、インフラが追随する構図が描ける。スミス氏は「需要を満たすために不可欠な投資だ」と語り、AIデータセンターの拡張が主役であることをにじませた。投資の重みは、国内の産業や公共分野に広がるAI活用の速度と直結していくとみられる。
輸出許可が開く半導体の流れ
AI計算力の土台となるGPUの確保でも進展があった。バイデン前政権が2024年に承認したライセンスにより、マイクロソフトはUAE国内でA100相当2万1500基分の能力（A100、H100、H200の組み合わせ）を積み上げてきた。これは同国の公共・民間セクターに提供するAI基盤を支える初期装備で、国内需要の立ち上がりに即した調達である。
さらに2025年9月、トランプ政権の下で新たな輸出ライセンスが承認された。更新された厳格な技術セーフガードに基づき、より先進的なGB300世代のGPUでA100相当6万0400基分の追加出荷が可能になったとされる。これらは数か月以内に供給が始まる見込みで、UAE各地の同社データセンターに配備され、モデル提供や各種アプリケーションの処理能力を底上げするとみられる。
一部報道によれば、今回の承認は自社センター向けを想定し、物理・サイバー両面の安全対策や転用防止の管理体制が条件に組み込まれているという。輸出規制と地政学のはざまで、技術の流れは「管理された信頼」を要請されている。調達は量の競争ではなく、ガバナンスを前提にした継続供給の設計図へと姿を変えている。
G42と整備されたガードレール
同社は2024年にG42へ15億ドルを出資し、スミス氏が取締役に就いた経緯がある。G42を巡っては中国との過去の関係が米政界で警戒を招いてきたが、両社は政府と連携した包括的な遵守枠組みを整え、米国法や輸出管理に適合する運用体制を構築していると説明する。現時点で確認されている範囲では、監査やアクセス管理などの仕組みが本格実装に向けて進んでいるとされる。
スミス氏はロイターの取材に対し、G42が米国法準拠のために「非常に大きな進歩」を遂げたと述べ、将来的に先端半導体への直接アクセスが「同社の将来の一部」になるとの見方も示唆した。言葉の背景には、厳しい安全基準と透明性を条件にしたパートナーシップの深化がある。AIの恩恵を広く行き渡らせるという建前と、技術拡散を管理するという要請の均衡が問われている。
アブダビのデータホールでは、冷気とファンの低い唸りだけが響く。数字が積み上がるほどに、装置の向こう側で求められるのは規模より運用の精度だ。足元の一手は、湾岸のAI地図を塗り替えるだけでなく、輸出管理と信頼の新しい型紙を世界に提示することになるかもしれない。
