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夜明け前の誘導灯がまだ淡く光る滑走路に、静かな緊張が走った。ミュンヘン空港が複数のドローン目撃を受け、航空管制を一時停止したのだ。運休は17便に広がり、約3000人が足止めとなった。到着予定の15便は近隣空港へ迂回し、欧州で続く不可解な飛行体騒ぎがまた一つ積み重なった格好である。安全と利便、そのはざまが問われている。
眠らない空に走った緊張、ミュンヘンで何が起きたか
現地の騒ぎが伝わり始めたのは2025年10月3日 05:18ごろだ。ドイツの航空管制当局が空港周辺の飛行を制限し、その後に相次いだ目撃情報を受けて全面停止へと踏み切ったと空港側は説明している。運航は同日11:59まで止まり、最初の到着は12:25、最初の出発は12:50に設定された。夜明け直後の滑走路に、まるで“見えない壁”が立ちはだかったように映る。
影響はすぐに数へと姿を変えた。欠航は17便、影響を受けた乗客は約3000人にのぼったとされる。到着予定だった15便はシュツットガルト、ニュルンベルク、ウィーン、フランクフルトに目的地を変更した。ターミナルではボードの表示が次々と更新され、眠そうな子どもを抱えた家族やビジネス客が振替カウンターへ列をつくる。空港は滑走路と周辺の安全確認に人員を回し、航空各社は乗継ぎの組み替えに追われたとみられる。
相次ぐ欧州の「謎の機影」が示すもの
今回の中断は、欧州で広がる不穏な流れの延長線上にある。先週はデンマークやノルウェーの空港でも同様の目撃が続き、一時閉鎖が相次いだ。デンマークでは軍施設上空でも観測が報告され、当局は「巧緻な操作者」の関与を示唆して警戒を強めた経緯がある。日没後から夜間にかけての出没が多く、空港の運用計画にじわりと負荷をかけるのが特徴だ。
デンマークのフレデリクセン首相は、背後関与についてロシアの可能性に言及したと報じられている。一方、ロシア政府は関与を否定しており、現時点で確認されている範囲では断定的な材料はない。意図的な威力偵察なのか、攪乱を狙う心理戦なのか。空を行き交う無人機が残すのは、航路の乱れだけではなく、欧州の臍下に沈殿する不安のかたちでもある。
EUが示した「ドローンの壁」構想、偶然か必然か
欧州の指導者たちは10月1日、コペンハーゲンで首脳会合を開き、検知・追跡・迎撃までを含む対ドローン網の整備に支持を表明した。いわゆる「ドローンの壁」構想である。国境管理や重要インフラの保護を強く意識した議論が交わされ、翌2日の欧州政治共同体の会合でも安全保障が大きな柱として扱われた。ミュンヘンの混乱は、その危機感を裏づける実例として重くのしかぶ。
とはいえ、構想はまだ輪郭段階にある。配備の優先順位、各国の法制度や空域管理との整合、費用負担の枠組みなど、詰めるべき論点は多い。誰に最も有利なのか、抑止力は十分に働くのか。各国の防空能力と民間空域の安全運用をどう一体化させるかが問われる。ミュンヘンの早朝に可視化されたリスクは、欧州の意思決定にも速度を求めていると映る。
足元の教訓、空の安全をどう守るか
空港にできる対策は、地味だが確実な積み重ねである。目視とセンサーの多層化、滑走路周辺への即応チームの配置、航空会社・管制・警察の情報共有の迅速化。無線航法や照明設備の点検ルーチンも、妨害が疑われる事案では重要になる。今回の対応では、広域への迂回設定と復旧計画の迅速さが混乱の最小化に寄与したとみられる。
旅客にとっての教訓も明確だ。夜間・早朝の移動では直行便でも予備時間を確保し、出発前には最新の運航情報を必ず確認したい。迂回・振替が生じた場合は、手荷物と渡航書類を手元に残し、地上案内の指示に従うのが安全だ。不可視の脅威は今後も続く可能性がある。見えない相手に対し、見える備えを重ねることが、日常を守る最短の道に近い。
