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捜査官が動いたのは2025年11月11日。ウクライナ国家汚職対策局（NABU、国家の汚職捜査機関）が、国営企業の調達を悪用した疑いで7人を起訴し、5人を拘束したと発表した。核電大手エネルゴアトム（国営原子力企業）を含む取引を通じ、約1億ドルが不正に循環したとされる。政府は監査と経営刷新で応答し、エネルギー供給の信頼回復を急ぐ構えだ。
拘束と起訴、広がる疑惑
発表によれば、NABUと特別汚職検察（SAPO）が連携し、エネルギー分野に影響力を持つ現職・元職の関係者や実業家らの組織的関与を立証しつつある。容疑は複数の国営企業の調達過程を不正に支配し、資金を洗浄したというものだ。起訴は7人、拘束は5人。捜査は少なくとも1年超の積み上げを経て、今回の一斉措置に至った。
手口の全容はこれからだが、調達条件や支払いの裁量に影響を及ぼし、企業側に不当な負担や選別を迫った構図が浮かぶ。対象はエネルギー関連の国営企業群に及び、資金は外部の“裏口”を経て組織側に戻る経路があったとされる。関係先の通信や現金授受の記録が押さえられ、資金の流れが時系列でつながり始めている。
エネルゴアトムは2025年11月10日に本社での捜査について正式声明を出し、資料提供などの全面協力を明言した。同社は戦時下の電力供給を担う基幹事業体であり、調達の透明性は安全運転と同じ重みを持つ。捜査機関と企業側が協調して事実関係を明らかにできるかが、初動の信頼を左右する。
政府の対応、監査と経営刷新
11日夜、ユリヤ・スビリデンコ首相はエネルゴアトムの監督機関である監督委員会の任期を前倒しで終了させ、新たな監査を指示した。政府は結果を法執行機関と汚職対策機関に速やかに引き渡す方針で、調達部門を含む全体監査を国家監査庁に命じている。権限と説明責任の所在を示し、統治の立て直しを前に進める合図である。
経済省などは国際パートナーと協議し、1週間以内に新たな監督委員会の候補を提示する段取りだ。新体制には、経営の早期刷新、全社監査、捜査機関との連携支援という役割が与えられる見通しである。政府は「監督委員会は人事と業務監督の全権限を持つ」と明確に述べ、統制の要である同委員会の責任も同時に強調した。
戦時下の電力網は攻撃で損傷が続き、発電から送配電まで各所にリスクが積み重なる。こうした局面で調達の恣意があれば、復旧のスピードと費用に直結し、国際支援の信頼にも影を落とす。今回の「監査→捜査→経営再建」の流れを外部に示すことは、資金の流れを正すだけでなく、電力安定と制度信用を守る安全弁として機能するはずだ。
見えてきた資金の流れ
NABUは、犯罪組織のメンバーが元副首相に現金を渡した経緯を記録したと説明した。総額は120万ドル超と約10万ユーロで、うち50万ドルは対象者が容疑者とされた後に妻へ渡ったという。資金は組織側のオフィスや医療施設で受け渡され、内部では当該人物にコードネームを付して連絡を取り合っていたとされる。資金の入口と出口が具体化しつつある。
一方で、首謀格とされる実業家の氏名について、当局は現時点で公表していない。国内メディアの一部は大統領の旧知とされる人物の関与を指摘するが、公式発表は容疑の枠組みと役割の説明にとどまる。裁判所での争点は、影響力の行使がどの場面で違法性を帯び、誰にどの利益が帰着したのかという点に集約していく。
企業側は協力姿勢を示し、政府は監督体制の再設計に踏み込んだ。積み上がる証拠と併せて、調達プロセスのどこにガバナンスの穴が開いたのかを可視化できるかが鍵である。監査の記載と捜査の立証がかみ合えば、エネルギー供給の信頼は段階的に補修される。法廷の判断と制度設計が、その歩幅を決める。
