ニセ警察詐欺拡大で長野の被害8億7746万円

長野県内で「電話でお金詐欺（特殊詐欺）」の被害が勢いを増している。県警の最新まとめでは、8月末までの被害額が8億7746万円に達し、昨年1年間の水準に迫る。背景には、ビデオ通話で警察手帳や逮捕状の画像を見せ、資産の送金を迫る「ニセ警察詐欺」の拡大がある。犯行は静かな生活圏に入り込み、固定電話やスマホの画面の向こうから、人の不安を狙ってくる。

県内で何が起きているのか

夏の盛り、受話器の向こうから聞こえるのは、通信事業者を名乗る落ち着いた声だ。「契約に不正がある」と切り出し、やがて「警察官」「検察官」を名乗る人物につなぐ。長野県内では、こうした“連係プレー”が増え、ビデオ通話に切り替えると、画面越しに警察手帳のようなものが提示される。偽の逮捕状画像まで用意され、「捜査のため」「身の潔白を証明するため」と言い換えながら、送金や暗号資産の移転を迫る流れだ。実際、8月5日には県内の警察署が、SNSの通話で「マネーロンダリングの容疑者になっている」と脅され、指定口座に50万円を振り込んだケースを公表している。手口はどれも、最初の一本の着信から始まり、次々と“役者”を登場させて、被害者を孤立させる。

さらに厄介なのは、犯行側が映像や小道具を巧妙に使い、相手の警戒心を溶かしてくる点である。県警が配布した資料をもとに報道各社が取り上げた事例では、偽の手帳や逮捕状を画面に掲げる映像まで確認された。被害者にとっては、信頼してきた「制服」の権威が視覚情報として目の前に現れる。そこに「極秘捜査」「守秘義務」といった言葉が重なり、家族や知人に相談する回路が断ち切られる。電話の向こうの“常識”に引き込まれるほど、現実の常識は遠のいていく。

数字でみる被害の伸び

県警は2025年9月16日、8月末時点の発生傾向を公表した。電話でお金詐欺の認知件数は172件、被害額は8億7746万円。画面越しに「資産調査」を迫る類型の増加に引っ張られる形で、件数も金額も上昇基調にある。SNSを介した投資・ロマンス詐欺も依然として重く、被害の裾野は高齢層に限られない。

前年同期との比較でも伸びは鮮明だ。件数は30件増、被害額は3億7500万円増となり、1件あたりの平均被害はおよそ510万円に達する。手口別にみると、オレオレ詐欺の内訳で「警察官かたり」が目立ち、偽の手帳や逮捕状画像を起点に“資産の安全確認”を名目とした送金指示が繰り返される。固定電話には国際電話の着信を装う事例も混じり、スマホはSNSのビデオ通話に誘導される。犯人側は一気呵成に畳みかけ、判断の時間を奪っていく。

手口のパターンと、止める合言葉

• SNSやメッセージアプリのビデオ通話で接触し、警察手帳や逮捕状の画像を提示して信用させる。
• 「極秘捜査」「守秘義務」を口実に、家族や職場へ相談できない状況を作る。
• 「逮捕を免れるため」「資産の安全確認」「お金の流れを調べる」などの名目で送金や暗号資産の移転を指示する。

ここで覚えておきたいのは、警察はSNSやメッセージアプリで連絡しないという一点である。逮捕状の画像を送ることもないし、「逮捕回避」や「資産調査」を名目に送金を求めることもない。国際電話のように「＋」で始まる番号からの着信や、見慣れぬ番号のショートメールは、まず疑ってよい。固定電話なら防犯機能付き機器や着信制限の導入、スマホなら国際電話の着信規制アプリの活用で、そもそも犯人からの“第一声”を遮断できる。迷ったらすぐ切って、必ず家族や警察に相談する。それが最初の一線になる。

全国の潮流と、地域が取るべき対策

全国の数字も重たい。警察庁の公表では、7月末時点の特殊詐欺被害額が722.1億円に達し、前年の年間総額を早々に上回った。うち「ニセ警察詐欺」による被害額がおよそ3分の2を占め、警察手帳と逮捕状画像を“入口”に、資産を根こそぎ移させる構造が広がっている。長野でも同じ波が押し寄せる以上、地域の防波堤は「出ない・見せない・相談する」という当たり前の徹底に尽きる。家庭の受話器の前、スマホの画面の前、それぞれの最前線で、今日からできる小さな対策を重ねたい。