ネタニヤフ首相が異例の恩赦要求　汚職裁判巡り国内緊張高まる

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2025.12.01

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イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相が、長年続く汚職裁判をめぐり、自らへの恩赦を求める異例の一手に出た。11月30日、アイザック・ヘルツォグ大統領あてに正式な要請文を提出し、頻繁な出廷が政権運営を妨げており、裁判の終結は国家の利益になると主張している。ロイター通信などによれば、この要請は国内政治の緊張を一段と高めている。

市民が見つめる「統治か司法か」の葛藤

アルジャジーラなどの報道では、要請が明らかになった直後、テルアビブのヘルツォグ大統領の私邸周辺に市民が集まり、「恩赦は法の軽視だ」と訴えるデモが行われたと伝えている。恩赦が認められれば「首相だけが法の外に立つのではないか」という不安が、路上のスローガンににじむ。

一方で、汚職をめぐる裁判は2019年の訴追から数年続き、ネタニヤフ氏は贈収賄や詐欺、背任など3件の事件で起訴されているが、いずれも無罪を主張したままだ。首相は週に複数回の出廷義務が安全保障判断の妨げになっていると訴えており、「統治の継続」と「司法の手続き」のどちらを優先すべきかという問いが、一般市民にも突き付けられている。

ガザやレバノン情勢、物価高などで生活が揺らぐなか、「今は首相の裁判より安全保障だ」として恩赦に理解を示す声もある。ロイター通信によれば、与党側は「法廷闘争を終わらせて安全保障に集中すべきだ」と支持を表明している。ただ、そうした「安定優先」の議論自体が、誰のための政治なのかという別の違和感を生んでもいる。

首相の計算と大統領の重い判断

恩赦要請は首相本人の書簡と弁護士がまとめた詳細な文書から成り、イスラエル大統領府によれば、法務省の赦免部門に送られて意見聴取が進められている。エウロニュースによると、ネタニヤフ氏は文書の中で有罪を認めず、むしろ「社会の分断を和らげるために裁判を終わらせるべきだ」と主張したという。慣例上、恩赦は有罪判決後に適用されることが多く、裁判中の要請は極めてまれだとイスラエル民主主義研究所は指摘している。

ネタニヤフ氏はこれまでも、汚職裁判を「メディアと司法による政治的な魔女狩り」だと繰り返してきた。ワシントン・ポスト紙などによれば、アメリカのドナルド・トランプ大統領は最近、ヘルツォグ氏あてに恩赦を促す書簡を送り、議会演説でも公開の場で擁護したという。これに対し、最大野党のヤイル・ラピド氏らは「有罪の認定、反省、政治からの引退なくして恩赦はありえない」と強く反発し、両者の思惑が大統領の判断をはさみ撃ちにしている。

形式上は儀礼的とされるイスラエル大統領だが、恩赦権限だけは例外的に強い。アルジャジーラの報道では、元司法省高官が「恩赦の申請だけでは裁判は止まらず、検事総長が訴追を取り下げない限り続く」と説明している。大統領府は「極めて異例で重大な要請だ」とコメントしており、個人の命運を超えて、三権のバランスそのものが試される局面になりつつある。

イスラエル民主主義への波紋とこれから

ガーディアン紙は、イスラエルで裁判前に恩赦が検討された事例として、1980年代の治安機関幹部に対する事件を挙げるが、その際は当事者が罪を認めて職を退いていたと指摘する。今回のように現職首相が無罪を主張したまま裁判の打ち切りを求める構図は前例が乏しく、法学者の間では「憲法危機の引き金になりかねない」との懸念が出ている。

さらにアルジャジーラは、国際刑事裁判所（ICC）がガザでの戦争をめぐりネタニヤフ氏に逮捕状を出していることも指摘する。国内での汚職裁判と戦時指導の責任追及が重なり、イスラエルが掲げてきた「中東唯一の民主国家」という自己像は揺らいでいる。国内の法の支配への信頼が傷つけば、対外的な正当性も弱まりかねない。

ヘルツォグ大統領が恩赦を認めるにせよ退けるにせよ、「誰がどこまで法のコストを負うのか」という問いは残る。戦時下の不安と日々の暮らしを抱えながら、多くの市民は首相個人の裁きではなく、今後も続く国家と司法の関係を見極めようとしている。