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官邸前に集まった報道陣のフラッシュが白く弾けた夜、新内閣の始まりを告げる言葉が静かに放たれた。高市早苗首相は、経済政策の舵取りにおいて「最終的な責任は政府が持つ」との立場をあらためて前面に置きつつ、日本銀行との綿密な連携を欠かさない姿勢を示した。外交・安全保障では日米同盟の強化と「自由で開かれたインド太平洋」を掲げ、防衛政策の再点検にも踏み出す構えである。
政府が担う最終責任と、日銀との距離感
就任会見の場で高市首相は、マクロ経済の最終責任を政府が負うとの従来の見解を重ねて示し、そのうえで金融政策の手法は日銀に委ねられると語ったとされる。会見録の全文は現時点で未掲載だが、政府と日銀の役割分担を明確にし、意思疎通を密にするという基本線は変わらないと映る。市場との対話をどう設計するかが、政権の初動を左右するだろう。
この背景には、2013年1月に政府と日本銀行が公表した共同声明がある。同声明は、消費者物価上昇率で2％の「物価安定の目標」を掲げ、政府は成長力強化と持続可能な財政、日銀は金融緩和の遂行という役割をそれぞれ明記した。以降の日本のマクロ運営はこの枠組みに沿って進んできた経緯がある。新内閣も同枠組みを所与として政策を積み上げる公算が大きい。
賃金の上昇を伴う物価安定をどう定着させるか。物価が落ち着いても賃金が追いつかなければ家計の実感は改善しない。財政・規制改革・投資促進と、金融政策の伝播経路をつなぐ実務の細部が問われる局面である。政府が「最終責任」を口にする以上、物価と賃金、成長と分配のバランスを取る総合戦略が欠かせないとみられる。
物価高に挑む最初の一手、家計に風を通す
首相は初閣議で経済対策の策定を指示する考えを表明し、家計の負担軽減を急ぐ構えを示した。足元の物価高に加え、米国の通商措置の波及を受ける企業や地域もある。短期の価格対策と、中期のコスト構造是正という二つの時間軸を同時に走らせる必要がある。会見の詳細はこれから公表される見通しで、具体策の輪郭がどこまで早く示されるかが注目点だ。
内閣が示した基本方針は、「責任ある積極財政」の下で戦略的に財政出動を行い、危機管理投資をてこに成長と物価の安定を両立させるという骨格を持つ。エネルギーや食料、経済安全保障にまたがる投資を束ね、消費マインドの改善と税収増を循環させる設計だ。歳出の優先順位と出口戦略をどう描くかが、施策の持続性を決める鍵になる。
賃上げの持続や人材投資、地域の産業クラスターづくりも柱に据えられる。価格転嫁の改善や中小企業の生産性向上、再エネ・省エネ投資の加速は、家計の可処分所得に時間差で効いてくる。短期の可視的な負担軽減と、中期の構造的な賃上げの両輪が、首相の言う「最終責任」を裏づける現実的な道筋になるとみられる。
同盟と抑止の再点検、防衛３文書の見直しへ
外交・安全保障では、日米同盟を基軸とし「自由で開かれたインド太平洋」を推進する方針を首相は打ち出した。米大統領の来日が実現すれば、日本の防衛力を一段と充実させる考えを直接伝える意向もうかがわせる。就任会見での言葉は、同盟の実効性を高めつつ地域安定に寄与する道筋を描く試みとして受け止められる。
同時に、政府は2022年12月に策定した「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」のいわゆる防衛３文書の見直しに着手する構えだ。厳しさを増す安全保障環境のもと、抑止力と対処力の抜本強化を掲げた文書群を、運用と資源配分の両面でアップデートする作業になる。産業・技術基盤や人材の確保まで射程に入る見直しが想定される。
装備や編成の議論はもとより、経済・技術・情報を含む総合的な国力の活用が問われる段階にある。防衛生産の底上げ、国際協力の枠組み、インテリジェンス機能の強化など、地に足のついた積み上げが欠かせない。国内の理解と透明性をいかに確保するか。予算・人材・時間という制約の中で、優先順位の見直しに踏み込めるかが焦点となる。
