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検査室に届いたサンプルを前に、担当者の手が一瞬止まった。オランダの半導体メーカー、ネクスペリアは2025年11月6日、経営権をめぐる危機は解決に向かっているとしつつ、中国で10月13日以降に製造された製品の真贋や品質を保証できない可能性を顧客に通知した。供給網の節目となる判断だ。
制御権をめぐる混乱と現場の動き
経営権をめぐる緊張が続く中、オランダ政府は2025年9月30日、ネクスペリアに対し物資確保法を発動し、重要製品の継続供給を守る枠組みを設けた。社内の意思決定には監督が及ぶことになり、移管や資産処分を伴う動きは制限された。直後の社内フローは見直しが相次いだ。
続いて中国側は10月4日に輸出を個別審査とし、欧州の自動車向けを中心に在庫の詰まりが広がった。同社は11月6日の声明で、混乱は収束に向かっているとし、他地域の工場は通常稼働だと説明した。創業者の張学政氏が10月7日に職務停止命令を受けたことも明記し、相反する報道は誤りだと述べた。
親会社の聞泰科技が米国の規制対象である点も改めて指摘した。系列全体の統治に光が当たる一方で、製造・販売の現場はなるべく手を止めずに動かす姿勢を崩していない。声明は、危機管理と操業維持を両立させる意図をにじませた。
中国生産品への注意喚起と供給網
一方で、最も敏感な一文が添えられた。中国で2025年10月13日以降に製造された製品について、真贋や品質基準を保証できない可能性があるとして、顧客に注意を促したのである。検査履歴やトレーサビリティの確度に揺らぎが生じる恐れがあり、品質保証の実務に直撃する。
同社の販売・梱包の約7割は中国拠点を経由する。中国側の事業体は独立性を主張し、年末までの供給力を確保できるとの見立ても出すが、系列や認証手順が分断されれば、完成車や産業機器のラインに揺らぎが伝わりやすい。顧客は仕入れロットの切り分けと代替調達を急ぐ。
社内では、検査基準の補強や遡及的な品質確認の工程が積み増されているとみられる。現場の負荷は増すが、長期的な信頼回復には避けて通れない工程である。部材の流れを止めずに、保証の網だけを細く強く編み直す作業が続く。
米中合意と規制のはざまで
緊張緩和の糸口も見えた。米中の合意が伝えられ、同社は今後1年間、米国の輸出規制の適用除外となる見通しを歓迎した。オランダ政府も6日の更新で、中国が出荷再開を可能にする方針を示したと受け止め、近く顧客に届くとの認識を示した。供給正常化への道筋が描かれつつある。
ネクスペリアは中国での事業に引き続き力点を置きつつ、将来的な供給確保に向けて代替策を検討する専任チームを走らせている。調達・品質・法規制の各部門が横断で動き、段階的な安定化を狙う。装置の唸りは止まっていない。分断の継ぎ目を埋める作業が静かに続いている。
