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倉庫の棚に並ぶ小さな黒いチップを前に、購買担当者のため息がこぼれる。オランダのカレマンス経済相は2025年10月21日、中国の王文濤商務相とネクスペリア問題を協議したが、突破口は見出せなかった。9月30日にオランダ政府が同社への介入を発動し、中国側は同社拠点への輸出管理措置で応じた。欧州の生産現場に緊張が走っている。
交渉の行方と現場のざわめき
10月21日、中国商務省は王文濤氏がオランダ側の要請でカレマンス経済相と協議したと公表した。王氏は「国家安全保障」の概念拡大に反対する立場を伝え、世界の産業・サプライチェーンの安定を守るよう求めた。交渉の場に緊張が漂う一方で、具体的な打開策は示されず、膠着の色合いが残ったと映る。
オランダ側は、関係当局との対話を続け、企業の継続性を守る建設的な解決を目指す姿勢を示している。だが現場では不安が募る。部材の到着が遅れれば電子制御ユニットが組めず、工程全体が止まる。短期の混乱で収まるのか、長期の停止へ連鎖するのか、判断の難しさが調達現場に影を落としている。
オランダの異例措置と中国の対抗
オランダ政府は9月30日、ネクスペリアに深刻なガバナンス上の不備が生じ、欧州経済の安全に脅威となり得るとして、物資確保法を発動した。命令は生産能力や知識、継続性を損なう意思決定を大臣が阻止できる内容で、通常の操業は妨げないとされた。適用は最大1年の時限措置であり、企業の安定確保を狙う異例の一手である。
これとは別に、10月13日にはアムステルダム控訴院企業部が独自判断で、同社CEOの職務停止と決定権を持つ臨時社外取締役の任命、全株式（1株を除く）の信託移転を命じた。司法手続きは政府の介入と切り離されており、経営の適正性に対する疑義が浮上したかたちだ。社内統治の立て直しが問われている。
さらに、オランダ側は中国政府が中国国内のネクスペリア各拠点に対し、会社特定の輸出管理措置を課したとの通報を受けたと説明している。内容の詳細は非公表で協議は継続中とされる。一方で中国商務省は、安世半導体（ネクスペリア）を巡る措置がサプライチェーンの安定を損なうと強く批判しており、見解の溝が浮かぶ。
揺れる欧州自動車産業、次の一手は
ドイツ自動車工業会は10月20日、ネクスペリアから10日に供給確保が難しい旨の通知を受けたと明らかにし、短期に解決されなければ生産制限や停止に至る恐れがあると警告した。業界団体は企業やドイツ政府、欧州委員会と連絡を取り合い、迅速で実務的な解決策に焦点を当てるべきだと訴えている。現場の緊張は高まるばかりだ。
ネクスペリアの製品は最先端ではないが、車載の電源管理や保護回路などに欠かせない汎用品として大量に使われる。現時点で確認されている範囲では、各社の在庫がどれだけ持つかは明らかでなく、代替調達や設計変更の検討が急がれている。小さな部品が大きな生産ラインを止めかねない現実がある。
交渉の主導権はまだ見えにくい。国家安全保障をどう定義し、サプライチェーンの安定とどう折り合いを付けるのか。透明な基準と期限を伴う対処が欠かせない。欧州の戦略的自律を掲げつつ、相互依存の現実を織り込んだ解決の糸口を、当局と産業界がどこまで引き寄せられるかが問われている。
