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半導体メーカーの調達担当者たちが、メモリーの発注表を見つめて眉をひそめている。AIサーバー向けにスマートフォン用と同じ種類のメモリーチップを使うというNVIDIAの決断が、世界の供給網に新たな波紋を広げつつある。テクノロジー専門の調査会社カウンターポイント・リサーチは2025年11月19日の報告書で、この動きが続けばサーバー向けメモリー価格は2026年末までにおよそ2倍に達する可能性があると警鐘を鳴らした。
NVIDIAの「スマホ型」メモリー転換
報告書によると、NVIDIAはAIサーバーで使うメモリーを、従来のDDR5からLPDDRへ切り替える方針だ。DDR5は一般的なサーバーで使われる高速DRAMで、LPDDRはスマホやタブレットに搭載される低消費電力型DRAMである。AIサーバー1台にはスマホ1台よりはるかに多くのメモリーチップが必要になるため、この切り替えが実現すれば、LPDDRの需要は一気に跳ね上がると見込まれている。カウンターポイントは、NVIDIAの需要規模は大手スマートフォンメーカーに匹敵し、サプライチェーンにとって地殻変動級の変化になると位置づけている。
一方で、供給側の余力は限られている。サムスン電子やSK hynix、Micronといった大手メモリーメーカーは、高性能AI向けのHBM（高帯域幅メモリー）の生産に注力するため、既にレガシーDRAMの生産を絞っている。このため、ここ2カ月ほど世界のエレクトロニクスサプライチェーンでは旧世代メモリーの不足が続いてきた。報告書は、メーカーが工場能力をLPDDRへ振り向ければ、足元の不足が先端品にも波及しかねないと指摘し、サーバー向けに限らないメモリー全体でも2026年4〜6月期までに現在より約5割の値上がりを予想している。
クラウドと端末産業に広がるコストの連鎖
サーバー用メモリーの価格が高騰すれば、その負担はまずクラウド事業者やAI開発企業にのしかかる。AIサーバーは高価なGPUや電力設備も必要とするため、データセンターの投資予算は既に膨らんでいる。そこにメモリー価格の倍増が重なれば、新しい生成AIサービスの開発コストや、既存クラウドサービスの運営コストがさらに押し上げられる可能性がある。利用者にとっては、処理能力の向上と引き換えに、サブスクリプション料金やAPI利用料の水準がじわりと見直されていく光景も想像される。
影響はデータセンターにとどまらない。カウンターポイントによれば、AIサーバーは既に世界のサーバー市場の売上ベースで約3割を占めており、この巨大な需要がスマートフォン向けLPDDRと同じ生産ラインを奪い合う構図になり得る。そうなれば、スマホメーカーやPCメーカーも部材確保に苦労し、端末価格や発売時期の調整を迫られるかもしれない。AIがもたらす性能向上を支えるメモリーという部品が、静かに産業全体の力学を変え始めている。
