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執務室の扉が開き、リベラル派の新市長がホワイトハウスに足を踏み入れたのは2025年11月21日の午後だった。ニューヨーク市長選で勝利したゾーラン・マムダニ氏34歳と、共和党のトランプ米大統領79歳。選挙期間中は激しく対立した2人が、生活費の高騰や治安の課題を前に、初めて向き合って言葉を交わした。会談の空気は意外にも穏やかだった。
対立から対話へ、ホワイトハウスで交わされた言葉
この日マムダニ氏が訪米を申し入れた目的は、物価高にあえぐ市民生活と公共の安全について、連邦政府と率直に議論することだった。両者の直接会談は初めてだが、会談後にトランプ氏は「想像より多くの点で考えが近かった」と語り、愛着ある街ニューヨークの発展を共通の目標として確認したと強調した。
マムダニ氏も会談を「市民に手頃な暮らしを届けるための生産的な場だった」と振り返り、家賃や食料、交通費を抑える方策で協力の余地を探ったと説明した。選挙中、トランプ氏は同氏を「共産主義者」と呼び激しく批判していたが、今回は「素晴らしい選挙戦だった」とねぎらいの言葉をかけ、険悪だった関係に一時的ながら緩やかな変化が生まれた。
物価高と治安、ニューヨークが直面する現実
マムダニ氏はインド系のムスリムとして初めてニューヨーク市長に選ばれた34歳で、家賃の凍結や無料バス、無償の保育、市営食料品店といった政策を掲げてきた。物価高と格差が深刻な大都市で、こうした構想は生活防衛を期待する層から強い支持を集める一方、富裕層や企業、治安悪化を懸念する人々からは「急進的すぎる」との反発も呼んでいる。
ニューヨークは住宅補助や交通インフラ、治安対策の多くを連邦予算や連邦法に左右されるため、市長と大統領の関係は実務面で避けて通れない。トランプ氏は選挙戦では、マムダニ氏が勝てば連邦資金の削減も辞さないとけん制していたが、今回の会談では高騰する家賃や犯罪対策について意見交換し、少なくとも短期的には協力のチャンネルを開く姿勢を見せたとみられる。
分断の時代に見えた共通点、街をどう守るか
両者の間に横たわる溝は依然として深い。移民摘発や難民政策では、トランプ政権の強硬路線にマムダニ氏が公然と反対してきた経緯があり、経済運営を巡っても「小さな政府」と大規模な再分配という正反対の発想がぶつかる。それでも今回は、住民の安全と暮らしやすさという共通のテーマに焦点を合わせることで、対立の輪郭を少しだけ和らげた形になった。
世界の金融と文化の中心であるニューヨークは、しばしば新しい政治実験の舞台となり、その成否が全米の議論を左右してきた。民主社会主義を掲げる新市長と保守的な現職大統領が向き合った今回の会談も、その一場面にすぎないかもしれない。それでも、激しい言葉の応酬を重ねてきた2人が同じテーブルで街の未来を語った光景は、分断の只中にあっても現実の課題が対話を促すことを静かに物語っている。
