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衛星リンクのログが一斉に走り、端末の針が静かに揺れた。シャープは2025年11月5日、欧州宇宙機関やメディアテック、ユーテルサット、エアバスらとともに、OneWebのLEO衛星とESTECの設備を活用し、3GPPのRel-19に準拠した5G-Advanced NR-NTN接続の実証に成功したと発表した。衛星と地上の標準が交わる準備が整い始めている。
衛星と5Gが握手した瞬間
実験は欧州の試験施設で進み、移動する衛星に合わせてリンクを切り替える条件付きハンドオーバーが確認された。Ku帯の50MHz幅で通信を行い、OneWebのLEO衛星と地上の5Gコアが連携。ESTECのゲートウェイ設備を経由し、ログには安定した接続の遷移が記録された。
端末側にはシャープが開発したフラットパネルアンテナを搭載したNTNユーザー端末を使用。衛星はエアバス製造のプラットフォームで、サービスリンクはKu帯、フィーダリンクはKa帯を用いる。衛星のビームを地表とともに動かす設計が、実環境での接続を支えた。
無線チップセットはメディアテック、基地局機能はITRIのNR-NTN gNBが担い、評価にはローデ・シュワルツの計測系が投入された。衛星と地上の複数機器がRel-19の前提で同期し、ハンドオーバー成功という結果に収束したことは、標準に沿う開発の勢いを示す。
Rel-19がもたらす実装のリアリティ
Rel-19は5G-Advanced期の仕様で、非地上系を前提にした手順や運用の磨き込みが進む。今回の接続はその枠組みに沿って構成され、条件付きハンドオーバーの実装が検証対象となった。高速で地表を横切る衛星に対し、端末とネットワークが先回りして切替候補を用意する考え方だ。
標準に則した実証は、端末やネットワーク機器の相互運用性を高め、量産段階でのコスト低減にもつながる。スマートフォンや自動車、IoT機器が同じ仕様で衛星ブロードバンドに触れられれば、圏外の少ない世界に近づく。地上網を補完し、冗長性をもたらす意義も大きい。
今年2月から3月にかけても同陣営は5G NTNの接続検証を重ねてきたが、今回はRel-19準拠とハンドオーバー成功が焦点になった。段階を踏んだ検証が積み上がり、衛星と地上の“同じ言語”が整うことで、商用化の議論は現実の工程へと近づいている。
日本発の部材と公的支援
現場で目を引くのは、シャープの電子走査型フラットパネルアンテナだ。薄型で据え付けの自由度が高く、端末側の小型化と消費電力の抑制を狙う。今回のユーザー端末と実証の一部はNICTの助成を受けて進められており、産学官の連携が衛星×5Gの歩幅を広げている。
発表は2025年11月5日。これに先立ち、11月3日には関係各社が成果を伝え、ESAのスペースfor 5G/6Gプログラムも技術支援に言及した。標準に沿った接続が確かめられた意味は、技術の到達点だけではない。既存の地上設備と衛星を結ぶ投資判断に、具体的な裏付けを与える点にある。
ログ画面の時間が進むほど、切替の跡は滑らかになっていく。次に繋がるのはスマートフォンか、車か、あるいは遠隔で動く産業機器かもしれない。大きな音はしないが、通信の地図の余白が少しずつ埋まっていく気配がある。
参考・出典
- ESA、MediaTek、Eutelsat、Airbus、シャープ、ITRI、R&Sが、OneWeb低軌道衛星を用いたRel-19 5G-Advanced NR-NTN接続の実証に世界で初めて成功
- ESA, MediaTek, Eutelsat, Airbus, Sharp, ITRI, and R&S Announce World's First Rel-19 5G-Advanced NR-NTN Connection over OneWeb LEO Satellites
- International | ESA CSC: ESA, OneWeb, Airbus, MediaTek and partners successfully Test 5G-Advanced NR-NTN Connection over OneWeb LEO Satellites with Conditional Handover
