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ブダペストに平和の光を呼び込む——。オルバン首相がそう描いた構図は、米国がロシアの二大石油大手を制裁対象に加えたことで揺らいだ。首脳会談の計画は足踏みとなり、エネルギーをロシアに強く頼るハンガリー経済は逆風にさらされている。外交と資源の綱引きが、政権の計算を塗り替えつつある。
ブダペストに集まるはずだった期待
秋の冷たい風がドナウ川沿いを抜けるなか、オルバン首相は「平和への道はブダペストを通る」との思いを強めていたとみられる。ロシアと米国の首脳が向き合い、戦争終結への糸口をこの街で刻む——そんな物語を世界に示したい願望がにじむ。都市の喧騒の奥で、政治の鼓動だけが大きく響いていた。
しかし、現時点で確認されている範囲では流れは複雑だ。2025年10月22日、オルバン首相はブダペストでの米露首脳会談の準備が続いていると語ったが、日程は固まらず、計画は一時停止の空気を帯びた。外交の駆け引きは続くが、舞台装置の灯りは明滅し、先行きは読みにくいままだと映る。
期待は国内政治とも絡む。長期政権の足場を固めたい与党にとって、首脳会談の演出効果は大きい。それでも外交の歯車がかみ合わなければ、得点には結び付きにくい。会談が先送りされるほど、世論の視線は「成果」から「負担」へと移り、政権運営の重みが増していく構図が広がっている。
制裁が突きつけた現実
2025年10月22日、米財務省はロスネフチとルクオイルを新たに制裁指定した。狙いはロシアのエネルギー収入を断ち、即時停戦を迫る圧力を強めることにあると示した。戦費の源流を締め付けるという明確なシグナルであり、交渉のテーブルに向かわせるための外圧をあえて高めた一手といえる。
米国は今年1月10日にも、ガスプロムネフチやスルグトネフチェガスなどを対象に広範な措置を講じている。今回、二大石油企業にまで矛先が及んだことで、金融・輸送・保険を含む供給網全体に警戒が走った。制裁の網が太くなるほど、取引コストは膨らみ、ロシアの歳入は目減りする構図が強まるとみられる。
その余波はハンガリーにも及ぶ。ロシア産に依存する比重が高いとされる国内市場では、商流の付け替えや代替調達の難易度が一段と上がる。ブダペストが「平和の仲介役」を演じようとしても、経済の現実は待ってくれない。外交の演出とエネルギーの算盤が正面衝突し、緊張が街の空気に染み出している。
エネルギーの岐路に立つハンガリー
欧州の時計も進む。2025年10月20日、EU理事会はロシア産天然ガスの段階的禁止に向けた規則案について交渉立場に合意した。対象はパイプラインとLNGの双方で、全面禁止の起点は2028年1月1日と位置づけられた。供給安全を確保しつつ依存を断つという、長い坂道を上る覚悟がにじむ合意である。
最終決定には域内の手続きが残るが、方向はもう明確だ。各国は冬の需給と価格の安定を気にかけながら、調達先とインフラを塗り替えている。そうしたなかで、ロシア産に傾斜してきたハンガリーは難しい選択を迫られる。多様化の波に乗り遅れれば、政治判断の自由度は狭まり、交渉力も痩せる。
首脳会談が実現しても、エネルギーの方程式は容易には解けない。和平の糸口を探る一方で、脱依存の地図も描かねばならないからだ。オルバン政権が掲げる「主権」の言葉は重いが、それを支える燃料の現実が揺らげば、理念は空転する。ドナウの街は今、二つの地図を手に進路を探っている。
