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静まり返った介護施設の廊下で、選挙は静かに終わるはずだった。7月の参院選で大阪の老人ホーム入所者35人になりすまし、不在者投票がまとめて偽造された疑いが浮上した。大阪府警は運営会社のエリアマネジャーの男ら3人を公職選挙法違反(投票偽造)容疑で書類送検。数十人規模の摘発は異例で、介護現場の投票の公正性をどう守るかという重い問いが突きつけられている。
何が起きたのか
捜査関係者への取材で判明したのは、7月中旬に大阪府内の2施設で不在者投票の手続がゆがめられた構図である。エリアマネジャーの30歳代の男(大阪府守口市)を中心に、各施設の担当者と共謀し、入所者の意思確認を経ないまま投票用紙に特定候補の氏名を書き込んだとされる。少なくとも35人分に及んだ疑いがあるとみられる。
書類送検されたのは男のほか、泉大津の施設長だった20歳代の女(同府岸和田市)と、八尾の事務員だった20歳代の女(大阪市生野区)だという。男は八尾では不在者投票の「管理者」を務め、泉大津では管理者に当たる施設長に指示する立場にあったと伝わる。いずれも50〜90歳代の入所者名義で投票が行われたとされ、投票偽造の疑いは重いと映る。
現場の声も生々しい。入所者の一人は「投票所に行ったら『すでに投票が済んでいる』と言われた」と周囲に漏らしていたという。一部報道によれば、比例区の投票先は自民公認で出馬し落選した男性で、男性は2018年から介護事業者の一般社団法人で幹部を務めている。本人側は関知していないとの立場を示しており、事実関係の解明が急がれる。
施設と運営の構図
問題の舞台となったのは、運営会社「ビスカス」が手がける「ハイビス八尾」と「ハイビス泉大津」だ。公式情報によれば、ハイビス八尾は2023年4月1日開設、定員56人で八尾市安中に所在する。ハイビス泉大津は2022年3月開設、定員44人で泉大津市森町に位置し、いずれも住宅型有料老人ホームとして運営されている。地域医療機関と連携しながら生活支援を掲げる姿勢がうたわれている。
エリアマネジャーだった男は、複数拠点の管理運営を統括する立場にいた。八尾では自らが不在者投票の管理者となり、泉大津では管理者に当たる施設長へ手順の指示を行ったとされる。管理者の裁量が広い手続の隙を突いた構図が浮かび、内部統制の弱さと選挙手続の二重の脆さが交錯する様相だといえる。
運営側の受け止めも割れている。2025年10月17日、ビスカスの担当者は取材に対し「捜査に協力する。利用者に迷惑をかけたなら申し訳ない」と述べた。一方、比例で落選した男性の後援会は同日、「(ビスカス側から)警察の聴取の連絡はあったが、本人と後援会は関知していない」と説明した。いずれも現時点での姿勢表明にとどまり、具体的な経緯や組織的関与の有無はなお霧の中である。
外部立会人と制度の隙間
高齢者施設での不在者投票では、公正確保のため選挙管理委員会が選ぶ第三者の「外部立会人」を置く運用が求められてきた。もっとも現行は努力義務の位置づけとされ、現場の実施状況にはばらつきがあるのが実情だ。現時点で確認されている範囲では、少なくとも泉大津での不在者投票に外部立会人はいなかったという。制度の趣旨が徹底されないままでは、脆弱性が露呈し続ける恐れがある。
集団での投票が日常のケアに乗る介護施設では、意思確認の丁寧さと手続の透明性が命綱となる。署名や本人確認を形式的に流せば、今回のように少人数の現場職員と管理者の意図で投票が左右されかねない。地域の選管と施設が事前の訓練やチェックリストを共有し、立会いの確実な確保と記録の保存を常態化できるかが焦点となる。
大阪府警の捜査は続く。誰が、いつ、どのような手順で投票用紙に記入したのか。管理者の指示と実行の関係、そして候補者側との接点の有無は、刑事責任の見極めだけでなく制度改善の土台を左右する。数十人規模の偽造が現に摘発された事実は重い。再発防止のための実効策が、現場の手触りを伴って積み上がるかどうかが問われている。
