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試料の混合比を少しずつ変え、電気がどれほど通るかを確かめる測定が続いた。東北大学の黄錚大学院生と大野真之准教授、米レンセラー工科大学のプラシュン・ゴライ助教授らは、塩化物系固体電解質で酸素が果たす役割を丁寧にほどき、伝導を左右する鍵が「どの酸素か」にあることを示した。成果は全固体電池の設計指針につながる。
酸素が動かす塩化物ガラスの電導
塩化物系の固体電解質は、成形性と広い電位窓が評価され、酸素を少量加えると伝導度が高まる現象でも注目されてきた。ただ、その仕組みは十分に分かっていなかった。研究チームは、酸素の結び付き方に着目した。金属中心同士をつなぐ「架橋酸素(隣り合う金属中心を結ぶ酸素)」と、末端に孤立している「非架橋酸素(ネットワークから外れた酸素)」の二面性である。
実験ではナトリウム酸化物と五塩化タンタルを用いてガラス状の固体電解質を作製した。急冷や機械的混合による非晶質(アモルファス)化が起こると、原子配列の秩序が崩れてイオンの通り道が広がる。この効果はナトリウムイオンの移動を助けるとされ、塩化物系で報告されてきた酸素添加の利点と整合する。
解析の結果、架橋酸素は金属塩化物の骨格をつなぎ、ネットワークの連続性を高めてイオンが飛び移れる空間を確保する。一方、非架橋酸素は局所的にマイナスに偏り、移動するナトリウムイオンとの相互作用を強めて足止めとなる。酸素の“つながり方”が、同じ酸素でも正反対の効果を生むと示された。
見えた三段階の変化
酸素をほんの少し導入すると、材料は非晶質化してイオンが動ける自由度が増す。微細な空隙とゆらぎが連なり、ナトリウムイオンが最小のエネルギーで別の位置へ移る遷移が生まれる。伝導度の立ち上がりはこの段階から始まり、既存の塩化物に比べても優位な数値を示す。
添加量をさらに増やすと、塩素の一部が酸素に置き換わり、架橋酸素が増えてネットワークがつながる。伝導度は一段と上がり、室温で1 mS/cm級の水準に達する組成が現れる。最適化した領域では4.1 mS/cmに達する例も確認され、ガラス系として高い値が得られた。構造と電気特性が歩調を合わせて変わる様子が、実験と計算で裏づけられた。
ところが酸素を入れ過ぎると、非架橋酸素が増えて伝導度は急減する。末端にぶら下がる酸素が局所的な井戸のように働き、ナトリウムイオンを引き留めるためだと解釈できる。最適点を越えた途端に道が行き止まりになる。この三段階の振る舞いが、酸素の役割を定量的に示す指標となった。
広がる設計指針と次の一手
重要なのは、最適な酸素添加量が物質ごとに異なる点である。骨格を構成する金属やハロゲンの違いで、架橋酸素と非架橋酸素のバランスが変わるためだ。今回の成果は、複数の陰イオンを併せ持つ「マルチアニオン(異なる陰イオンを混在させる設計)」材料で、どこまで酸素を導入すべきかという具体的な目安を与える。
全固体電池では、電解質が室温付近でmS/cm級の伝導度を示し、電極と安定に接することが求められる。ガラス系塩化物は成形性に優れ、界面形成の自由度も高い。酸素の連結様式を制御してネットワークを育て、過剰な末端酸素を避けるという方針は、カソードとの適合や長期サイクルの確保にもつながるだろう。
東北大学は2025年11月12日に本成果を公表した。理論と実験を往復しながら酸素の居場所を写し取ったことで、経験則だった酸素添加が設計論へと姿を変えた。次は他金属系への拡張や、製造プロセス中の酸素管理の最適化が焦点になる。静かな材料内部で、見えない連結が性能を押し上げている。
