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リマの会見場に記者のざわめきが重なり、照明が白く反射した。ペルー政府は2025年11月3日、メキシコとの外交関係を断絶すると表明した。カスティジョ政権で首相を務めたチャベス氏の亡命申請をメキシコが受け入れたことへの反発が直接の引き金である。2年越しの軋轢が、ついに断交という重い決断へと傾いたと映る。
断交の決断と外相の言葉
発表に臨んだのはフーゴ・デ・セラ外相だ。共謀の疑いで捜査対象となっているチャベス元首相が在ペルー・メキシコ大使公邸で保護され、亡命申請を受理されたとし、「驚きと深い遺憾の意」を示した。メキシコが内政干渉を繰り返していると非難し、関係断絶を決めたと語った。緊張の面持ちが、事態の深刻さを物語っていた。
ロイターは、ペルー政府がメキシコの対応を「非友好的な行為」と位置づけたうえで、政治・経済などの外交関係を停止する一方、領事業務は維持する考えを示したと伝えた。APも同日、断交の事実関係を確認し、メキシコ側の即時の反応は限られていると報じた。現時点で確認されている範囲では、連絡窓口は領事ルートに絞られる見通しである。
一方で、一部報道によればメキシコ政府は亡命受理を正当な権利に基づく判断だと擁護し、断交は過剰だと反発したとされる。評価の隔たりは小さくない。象徴的な握手や共同会見が消え、互いの首都に掲げられた国旗が重なる機会は当面遠のく。対話の糸口をどこに見いだすのか、先の読みにくさが広がっている。
長引く対立の底にある出来事
背景には2022年12月の混乱がある。カスティジョ氏は憲法秩序に反して議会の解散を宣言し、直後に拘束された。チャベス氏は当時の首相として関与が疑われ、反乱や共謀の容疑で刑事手続きの対象となった。現時点で確認されている範囲では、検察は重い刑を求めており、公判の行方は今も国論を二分させる焦点だとみられる。
この間、メキシコ歴代政権の姿勢がペルー側の反発を招いた。カスティジョ氏やその家族の扱いをめぐる見解の相違、権力移行の正統性をめぐる評価のずれが積み重なり、発言の応酬が続いてきた。2022年以降、ペルーはたびたび内政干渉を批判しており、今回の亡命受理はその延長線上で「最後の一押し」となった構図が浮かぶ。
国際慣行の面でも視線は集まる。外交使節の公邸で保護された人物の扱い、亡命の可否、第三国への安全な退去など、地域で共有してきたルールの解釈が問われる局面である。ロイターは、チャベス氏による正式な亡命申請手続きの詳細がなお判然としないとの見方も伝えた。細部の確定が、両国の次の一手を左右しそうだ。
暮らしと実務への影響、そして次の焦点
断交は政治・経済・観光を含む幅広い公的対話を止める一方、領事関係は維持される見通しだ。直ちに人の往来が遮断されるわけではないが、ビザ発給や公証、在外選挙の運営など、各種手続きは簡素化されず、煩雑さが増す可能性がある。企業にとっても当局間の協議が滞り、通関や認証の実務で遅延が生じる懸念は拭えない。
中南米の地域外交への波及も見逃せない。大使館での保護や政治亡命はこの地域の現代史で繰り返されてきたが、今回のように即座に断交へ至るのは稀だ。各国が注視するのは、チャベス氏の処遇と安全な移動経路の確保、そして両国が対話のレールに戻る条件である。国際法の枠組みをどう運用するかが問われている。
今後の焦点は3つに絞られる。第一に、チャベス氏の亡命審査の行方。第二に、両国が維持するとする領事協力の具体化。第三に、第三者の仲介を含む緊張緩和の道筋である。街路樹の影が長く伸びるリマの夕暮れ、閉ざされた公邸の門扉の向こうに、人と国家の境界線が静かに揺れているように見える。
