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山風が旗を揺らすカンディル山脈で、武装解除の歯車がまた一段回った。トルコの非合法組織PKKが2025年10月26日、トルコ国内の全戦闘員を撤退させると発表し、政治参加を可能にする統合法の整備を政府に求めたのである。40年超の流血を重ねた対立に、現実的な出口が見えるのかが問われている。
カンディルで読み上げられた決定
声明が読み上げられたのは、PKKの拠点として知られるイラク北部のカンディル山脈である。オジャラン受刑者の大型写真が掲げられ、整列した戦闘員の前で「トルコから全ての戦闘員を撤退させる」との決定が示された。約二十数人の戦闘員が姿を見せ、動きが実行段階に移ったことを印象づけたと映る。
PKKは2025年5月、収監中の指導者アブドラ・オジャランの呼びかけを受け、武装闘争の終結と組織の解散を決定していた。7月には誠意の象徴として一部の武器を焼却し、対立の「出口」に向けた意思表示を重ねてきた経緯がある。今回の撤退発表は、その延長線上にある段階的措置といえる。
声明は「自由で民主的かつ兄弟的な生活」の基礎を築くと強調し、トルコ政府に対して政治参加への移行を可能にする統合法の可決を促した。戦闘員の安全な帰還や社会復帰の枠組みを求める文言が並び、武装解除と統合を同時に進めるという意図がにじむ。停戦の掛け声にとどめない姿勢が伝わる。
政府側の反応と次の一手
与党側はこの動きを歓迎している。大統領府のブルハネッティン・デュラン報道官は撤退の発表を前向きな進展と評価し、恒久的な平和と安全の実現への意欲を示した。一方で、与党報道担当のオメル・チェリク氏も挑発行為への警戒を呼びかけ、プロセスの保護を強調したと伝えられる。慎重さと期待が交錯する局面である。
国内政治の側面でも、統合法や言語・政治参加に関する制度整備が焦点として浮かぶ。現時点で確認されている範囲では、議会内で改革議論の場が設けられ、その進捗が和平の温度を左右するとみられる。PKK側は「民主政治」への移行を繰り返し訴えており、法制度の具体化なくしては次の段階に進みにくい構図がある。
ただ、歩みは一様ではない。政府が治安の確保を最優先に掲げる一方、PKK側はオジャラン受刑者の処遇改善や政治的包摂の拡大を求める。要求の非対称性が残れば、統合プロセスは足踏みしかねない。双方の「小さな合意」を積み重ねられるかが、社会の受け止めと並行して最大の試金石となる。
長い対立の終わりは見えるか
PKKとトルコ国家の対立は1984年に本格化し、犠牲は4万人超に達したとされる。近年PKKは国境の内側から押し出され、主要拠点をイラク北部に移してきた経緯がある。トルコ軍は越境作戦を重ね、山岳地帯に前哨拠点を築くなど圧力を維持してきた。力の均衡が変わったことが、今回の決断の背景にあると映る。
目線を広げれば、和平が近隣地域に及ぼす波紋も見逃せない。トルコが脅威とみなすシリアのクルド勢力との関係や、越境作戦の有無は、移行プロセスの進み具合で現場の緊張感を左右しうる。2015年の和平試みが頓挫した記憶は新しく、過去の失敗をどう乗り越えるかが、今回の成否を決める鍵となる。
撤退の第一報は風景を変えないかもしれないが、現場の空気は明らかに揺れた。武器を置く決意と、法の整備という現実的な段取りがかみ合ったとき、ようやく次の景色が見えてくる。いま必要なのは、大きな言葉よりも小さな実務を積み重ねることだ。山の風は、その一歩を急かしているように感じられる。
