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警察庁と警視庁が2025年10月1日、匿名・流動型犯罪グループ「匿流」への対処を強化する新体制を発足させた。全国警察の力を束ね、情報分析と機動捜査を一体化して中枢の摘発を狙う。拡散する詐欺や強盗に歯止めをかける正念場となる。
全国一体で臨む新体制の狙い
同日午前、警察庁で発足式が行われ、全国の匿流関連情報を集約する専従の分析室が中枢に据えられた。集めた断片を素早く編み直し、現場の特別捜査に橋渡しする設計だ。都道府県警の枠をまたぐ連携を前提にした点が新しい。
警視庁には対策本部が置かれ、刑事部の特別捜査課などと連携して一斉着手を図る。都道府県警から派遣される機動チーム「T3」が事件ごとに投入され、指示役や首謀者を狙い撃つ。一部報道では、専従分析と大規模機動の二本柱で運用するとされる。
式辞で楠芳伸長官は、匿流対策の成否が治安に与える影響は大きく「今が正念場」と指摘したと伝わる。違法なビジネスモデルの解体、資金の流れの遮断、海外当局との協働強化を求め、個々の事件を越えて組織の核に迫る姿勢を示した。
匿流の実像—匿名化と流動化がもたらす厄介さ
匿流は暴力団のような固定的な階層を持たず、SNSや求人を通じて実行役を都度集める。中核は匿名性の高い通信を使って距離を取り、検挙が進んでも新たな実行役が補充される。緩い人間関係の網の目が広域で重なり、実態解明を難しくしている。
関与は特殊詐欺、組織的強盗、窃盗、薬物事犯、悪質ホストクラブの勧誘にまで及ぶ。資金は風俗営業など別の活動へ再投資され、収益が中核に還流する構造が確認されている。令和6年の動向でも、主要な資金獲得犯罪は詐欺が過半を占めた。
特殊詐欺の入口は電話が主流だ。令和5年に被害届が受理された事案は1万9,038件で、最初の接触手段の77.5％が電話だった。固定番号や050番号、国際番号が混在し、実行役の入れ替わりと相まって、追跡を一段と困難にしている。
焦点は資金と通信—道具立てを断ち切る
道具立てを断つ対策も前に進む。2019年9月以降、悪用された固定電話番号は警察の要請で停止できる仕組みが運用され、2023年末までに1万2,665件の停止が実施された。契約者情報を集約し、悪質な再取得の抑止も図っている。
2021年11月には対象を特定IP電話にも拡大し、050番号の停止も可能になった。警察の要請に基づく停止は2023年末までに9,482件に達した。通信の匿名化を悪用する余地を狭め、詐欺などの着信基盤を面で封じる狙いだ。
さらに2024年4月からは、いわゆる050アプリ番号の契約でも本人確認が義務化された。悪質な電話転送事業者が抱える在庫番号の一括停止も導入され、2023年中に3,270番号が対象となり、4事業者で運用が進んだ。
組織再編がもたらす現場の変化
新体制に合わせ、警視庁では刑事部門の枠組みも見直される見通しだ。現時点で確認されている範囲では、組織犯罪対策の機能を刑事部に束ね、暴力団対策や国際犯罪、薬物銃器、犯罪収益の追跡を一体で運用する方向が示されている。
捜査の焦点は、指示役の特定と資金経路の可視化に置かれる。暗号資産の移転追跡や名簿流通の遮断、銀行口座や通信の不正利用の検知を横断させ、得られた断片を連結させる。部門の垣根を越えた情報共有が、機動力の源になる。
匿流の分断は一気呵成には進まない。それでも、通信と資金の要を細かく締め、広域で同時に打つことで中枢を浮かび上がらせることは可能だ。市民生活に浸透する詐欺や強盗の連鎖を断てるか、警察の現場に試練が続く。
