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会議室で配られた資料に、1つの年が太字で記されていた。2035年。内閣官房国家サイバー統括室は2025年11月20日、政府機関が利用する暗号を量子コンピューター時代に備えた「耐量子計算機暗号(PQC)」へ切り替える方針の中間とりまとめを公表し、その期限としてこの年を掲げた。静かに見える数字の裏で、国の情報インフラを作り替える長い作業が動き始めている。
政府暗号を量子時代仕様に 2035年までの大改修
量子計算機の研究が進めば、いま広く使われている公開鍵暗号は短時間で破られる可能性があると指摘されている。このため、量子計算機でも現実的な時間で解読されないことを目指したのが耐量子計算機暗号だ。米国や欧州連合を含む多くの国は、おおむね2030年代半ばまでに既存方式からの移行を終える計画を掲げている。
日本政府も移行が遅れれば、国際的な情報共有や安全保障上の連携に支障が出かねないとみて、政府機関の暗号を2035年までにPQCへ切り替える目標を定めた。今回の中間とりまとめを踏まえ、2026年度中により詳細な工程を示すロードマップを作成する予定だ。背景には、米国標準化機関NISTが2024年に初のPQC標準を承認し、具体的な選択肢が出そろいつつある状況もある。
鍵の巨大化とクリプトアジリティ コストとのせめぎ合い
とはいえ、切り替えは単純な作業ではない。現在の電子政府推奨暗号に比べ、PQCの公開鍵や署名はサイズが大きく、通信量や保存領域、装置の処理能力に余裕が必要になる。既存システムの改修や機器更新、試験の手間を考えると、開発コストが膨らむ懸念は小さくない。さらに、新方式に特有の解読手法や安全性評価、実装上の落とし穴については、世界的にも知見の蓄積がまだ十分とは言い難い。
そこで政府は、一度導入した暗号方式に縛られない「クリプトアジリティ」の考え方を打ち出している。暗号部分だけを入れ替えられる設計にしておけば、将来さらに安全な方式が現れたときも、システム全体を作り直さずに済む。PQC移行に向けたコストを抑えるだけでなく、その先の世代交代にも備える仕組みとして、情報システムの構成を見直すことが提案されている。
長く残る秘密と民間への波紋
量子計算機がまだ実用段階でなくても、油断はできない。今のうちに暗号化通信や機密文書を盗み取り、将来の量子計算機でまとめて解読しようとする「HNDL攻撃」と呼ばれる発想があるからだ。外交・防衛や重要インフラの制御情報、医療や個人の履歴のように、長く価値を持ち続けるデータほど影響が大きい。各国の指針でも、こうした高リスク分野については2030年頃までの早期移行を求める動きが目立つ。
今回の枠組みは主に行政機関を対象としているが、電力や通信といった重要インフラ事業者、クラウドや金融サービスを担う民間企業にも同じ課題が押し寄せる。利用環境によっては、PQC単独ではなく従来方式との組み合わせで当面の安全性を確保する案も検討されている。関係府省庁が連携して指針や支援策を整え、社会全体で静かに暗号の土台を入れ替えていくことが、これから10年あまりの仕事になる。
