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バイデン米政権で東アジア・太平洋担当の国務次官補を務めたダニエル・クリテンブリンク氏が9日、ワシントンのシンクタンクで講演し、米中関係の安定が日本の安全保障や利益を切り捨てる形で進んではならないと警鐘を鳴らした。現職のトランプ政権には、日中間の緊張緩和を主導する責任があるとも指摘し、同盟国の不安を抑えつつ地域の安定をどう確保するかという課題を突き付けた。
米中接近の陰で高まる、日本の「置き去り」不安
発言の背景には、東シナ海や台湾情勢をめぐって日本と中国の対立が長期化する一方で、米中の対話が再び動き出している現状への懸念がある。中国公船は尖閣諸島周辺での活動を続け、日本側はたびたび抗議してきたが、現場の緊張は和らいでいない。こうした状況下で米中が歩み寄れば、日本の安全保障は後回しにされるのではないかという不安が、政財界や世論の底流に広がっている。
クリテンブリンク氏は、日本や中国など東アジア各地に赴任した経験を持つベテラン外交官だ。だからこそ、米中関係の安定そのものは望ましい一方で、それが同盟国への防衛コミットメントをあいまいにしたり、領土や台湾有事のシナリオで日本だけが譲歩を迫られる交渉の材料とされたりすれば、地域全体の信頼を損なうとみている。今回の警告には、同盟国の視点を知る当事者として、そうした「置き去り」への危機感がにじむ。
トランプ政権に求められる、日中緊張緩和のデザイン
氏がトランプ政権の役割を強調したのは、米国だけが日中双方と安全保障と経済の両面で深く結びつき、対話の枠組みを整える力を持つからだ。日本に対しては、尖閣諸島や台湾有事をめぐる防衛義務をあらためて具体的に示し、中国に対しては、一方的な軍事行動や資源開発を抑え、国際法に基づく協議に戻るよう働きかけることが求められる。米中和解と同盟国の安心感を両立させる「設計図」を示せるかどうかが、現政権の外交手腕の試金石となる。
しかし、米国が仲介役を担っても、日中の利害対立が一挙に解消するわけではない。日本政府には、米中の力学に受け身で巻き込まれるのではなく、自らの防衛力整備や危機管理対話、経済関係の多角化を組み合わせて緊張を管理する戦略が必要だ。元高官の発言は、同盟頼みの姿勢から脱し、米中接近の局面でも日本が主体的に安全保障と近隣外交を組み立てられるかどうかという、重い問いを突き付けている。
