和平協議に暗雲　プーチン大統領がドンバスでの“完全制圧”を公言

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2025.12.05

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ロシアのプーチン大統領が、インドのテレビ局「インディア・トゥデイ」のインタビューで、ウクライナ東部ドンバス（ドネツク、ルハンスク両州）からウクライナ軍が撤退しない限り、武力で完全制圧する考えを示した。インタビューは4日に公開され、ロシア国営テレビも内容を繰り返し伝えている。発言は、前線に暮らす住民の不安と、進んでいるとされる和平協議の行方に、あらためて重い影を落としている。

前線と日常が重なるドンバス、住民に突きつけられた「二択」

ドンバスでは、ロシア軍が2014年以降の紛争を経て支配地域を広げ、現在も断続的な砲撃や無人機攻撃が報告されている。日本の防衛研究機関の分析では、ロシア軍はドネツク州各地で前進を図りつつも、州全域の掌握には至っていないとされる。今回の発言は、そうした「グレーゾーン」に暮らす人々に、ウクライナ軍の防衛継続か、撤退後のロシア支配かという二つの結果を、あらためて突きつける形になっている。

前線から数十キロの都市では、学校や市場が再開しながらも、空襲警報と停電が日常に入り込んでいると各国メディアは伝えてきた。ウクライナ側にとどまる住民の中には、軍が退けば戦闘は減るかもしれないが、自分たちの土地を手放すことになるとの葛藤を語る人もいる。一方で、すでにロシアが支配すると主張する地域では、年金や公共サービスを理由に、現状を受け入れざるを得ないと感じる人がいるとの報告もある。どちらの選択に転んでも、生活基盤を守る負担は住民が背負い続ける構図が変わらない点が重い。

「撤退か武力制圧か」プーチン発言の狙いと軍事情勢

プーチン氏は、インド訪問を前にしたインタビューで「これらの地域を軍事力で解放するか、ウクライナ軍が離れるかのどちらかだ」と述べ、事実上の最後通告のような構図を示した。同氏はこれまでも、ウクライナ軍がロシアの「支配地域」から撤退すれば戦闘を止めると主張しており、今回の発言は対象をドンバスに絞り込みつつ、その条件を繰り返した形だ。言葉の上では「撤退すれば停戦」と譲歩にも見えるが、ウクライナ側から見れば、自国領土を差し出すことが前提の要求であり、受け入れがたい条件である。

軍事情勢をみると、ロシアはすでにウクライナ全土の約2割を支配しているとロイター通信などは伝える。クリミア半島とルハンスク州のほぼ全域に加え、ドネツク州の大部分をロシアが制圧している一方で、同州の一部はなおウクライナが維持している。プーチン氏の発言は、この残された支配外地域を「いずれ奪取する」と公然と示すものであり、既成事実を交渉の土台にしようとする狙いが透ける。また、インドという重要なパートナー向けに、自らを「条件を提示する側」と位置づけるメッセージの意味合いも指摘されている。

和平協議の焦点と国際社会の選択肢

アメリカはすでに、特使を通じてロシアと非公開の協議を重ねており、トランプ政権の下でまとめられつつある和平案では、領土問題の扱いが最大の争点だと報じられている。ロイター通信によれば、プーチン氏は最近、米側の代表と会い、一部の提案を受け入れる余地に言及したとされるが、ドンバス全域の支配要求は崩していない。ウクライナのゼレンスキー大統領は、占領地の割譲は「侵略への報酬」になり得るとして繰り返し否定しており、両者の立場の隔たりは大きい。

国際社会にとって、今後の選択肢は簡単ではない。支援国がウクライナの領土保全原則を維持しつつ停戦を模索するなら、ドンバスの扱いを将来の協議に先送りし、当面は戦闘の停止と住民保護に焦点を移す案も議論されている。一方で、ロシアが今回のような「撤退か武力制圧か」という構図を固定化すれば、事実上の占領を追認する圧力として働くとの懸念もある。最前線で生活を続ける住民の安全をどう確保するのかと同時に、力による現状変更をどこまで許すのかという難しい判断が、各国に突きつけられている。