南ア大統領が米の“白人虐殺”主張を否定　米国との関係冷却が鮮明に

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2025.12.01

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南アフリカのシリル・ラマポーザ大統領は11月30日夜の国民向け演説で、米国が南アで白人が虐殺され土地を奪われていると主張していることを「事実無根の情報操作だ」と強く退けた。米国はこの主張を理由に、約1週間前にヨハネスブルクで開かれたG20首脳会議への参加を見送っており、両国関係は急速に冷え込んでいる。一方で大統領は、米国は依然として重要なパートナーだとし、対立の背景にある「誤情報」とどう向き合うのかが、外交と国内社会の両面で問われていることをにじませた。

「白人虐殺」論争がもたらす南ア社会の不安

今回の発言は、ドナルド・トランプ米大統領が「南アではアフリカーナー（白人系農民）が殺され、土地が奪われている」と繰り返し主張し、G20首脳会議の欠席や今後の制裁の正当化に使ってきたことへの反論だ。南アでは農場襲撃を含め暴力犯罪が深刻な課題である一方、ファクトチェック団体アフリカ・チェックなどは「白人農場主だけが他の集団より高い確率で殺害されているという統計的証拠はない」と指摘してきた。数字を冷静に見る作業と、恐怖をあおる言説の線引きが、改めて突きつけられている。

演説でラマポーザ氏は、米国の不参加理由が虚偽の主張に基づくとしたうえで、その背後には南ア国内外の団体や個人による「持続的な誤情報キャンペーン」があると述べた。こうした動きは、米国との関係悪化だけでなく、南アの雇用や投資にも打撃を与えかねないと警告している。G20関連のビジネス会合には多数の米企業が参加しており、南アにとって米国は依然として大きな市場だ。現場の企業や労働者にとって、外交上のメッセージの応酬は、明日の取引や雇用の行方に直結する問題になっている。

同時に大統領は、南アが憲法で法の下の平等を保障し、独立した司法を持つ民主国家であることを改めて強調した。アパルトヘイト後の南アは、真実和解委員会など対話の仕組みを通じて深刻な人種対立と向き合ってきた歴史がある。ラマポーザ氏が誤情報を広める人々にも「国家対話」に参加するよう呼びかけたのは、敵と味方に社会を割るのではなく、批判的な声も制度の中に取り込むことで、分断を抑えたいという思惑の表れだろう。

G20を舞台にした米国との緊張と「情報戦」の行方

今回の演説には、G20をめぐる主導権争いという側面もある。南アは2025年のG20議長国として首脳会議を主催し、その終了後に2026年議長国である米国へ議長国を正式に引き継いだ。しかし、米国は首脳会議に参加せず、その理由として「南アが白人に対するジェノサイド（集団虐殺）を行っている」といった主張を挙げたとされる。ラマポーザ氏は「南アはG20の創設メンバーであり、今後も完全で建設的なメンバーとして関与し続ける」と述べ、排除の動きを受け入れない姿勢を明確にした。

白人虐殺論は、南アの治安不安を背景に以前から一部の保守系メディアやSNSで拡散されてきたが、近年は欧米の極右運動にも利用されてきた経緯がある。それが今回は、世界経済の枠組みを左右するG20の場で、米政権の外交判断を正当化する根拠として使われた。国際政治の舞台で、データよりもセンセーショナルな物語が優先されるとき、その余波は南ア国内の人種関係だけでなく、多国間協調の信頼にも及びかねない。

それでもラマポーザ氏は、米国は南アにとって第2の貿易相手国であり、気候変動やエネルギー転換などで協力が不可欠だと強調し、「米国政府と尊厳ある対等な主権国家として対話を続ける」と述べた。一方で、もし誤情報に基づく圧力が続けば、関税や投資引き上げなど経済的コストは南アだけでなく米企業や消費者にも跳ね返る可能性がある。G20や国連といった枠組みを通じて、オンライン空間の誤情報とどう向き合うのかを各国が協議しなければ、同様の「物語」によって他の地域でも外交や安全保障が揺さぶられるだろう。誰がどの情報を広め、その結果生じる損失を誰が負担しているのかを見える化することが、南アと米国の関係修復だけでなく、デジタル時代の国際秩序を守るうえでの前提条件になりつつある。

「白人虐殺」論争がもたらす南ア社会の不安

G20を舞台にした米国との緊張と「情報戦」の行方

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