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世界の電源構成で、再生可能エネルギーが石炭を初めて上回った。気候・エネルギー分野のシンクタンク、エンバーが2025年10月7日に公表した分析によれば、2025年上半期は太陽光と風力の急拡大が世界の電力需要増をのみ込み、化石燃料の発電量をわずかに押し下げた。節目の重みがにじむ出来事である。
数字が示す「初の逆転」
夜明けの丘に銀色のパネル列が光る。そんな景色が統計の折れ線を押し上げた。2025年上半期、世界の再生可能エネルギー発電量は5,072TWhに達し、石炭の4,896TWhを上回ったとエンバーは分析した。世界の電力需要は前年同期比で2.6%増えたが、再生可能がその伸びを飲み込み、なお余力を見せた構図である。
けん引役は太陽光と風力である。太陽光は前年比31%増、増加分は306TWhに達し、需要増の83%を単独で賄った。風力も97TWh増え、両者を合わせた上積みは400TWh超に及んだ。結果として石炭はわずかに減り、ガスも微減した。需要拡大と同時に化石燃料の使用量が下がる稀有な場面が現れたといえる。
もっとも、この逆転は「一度きり」の通過点ではないと断じ切るのは早い。水力の出水状況や風況、気温の極端化、さらには経済の足取りで電源ミックスは揺れるためだ。とはいえ、太陽光と風力の成長が需要増に追いつき始めたという事実は、次の局面の地平を照らすとみられる。
中国・インドが押し上げ、米欧は足踏み
地域ごとの明暗もくっきり浮かぶ。中国では上半期の太陽光と風力の発電が大幅に伸び、化石燃料による発電は2%減った。設備導入の規模とスピードが世界全体の趨勢を左右するまでに至り、国内の需要増を上回るクリーン電力の供給力が化石の削減を促したと映る。
インドでも風力と太陽光がそろって2桁成長を見せ、電力需要の伸びを上回った。これにより石炭やガスの使用は抑制され、電源構成の転換が足元で進んだ格好である。高温化による冷房需要の増勢が続くなか、クリーン電力の実力が試され、応えた半年間だったといえる。
一方で米国と欧州連合では対照的な動きが広がった。米国では需要増がクリーン電力の伸びを上回り、化石燃料への依存が強まった局面があったと報じられている。欧州でも風況や水況の不調が重なり、石炭・ガスの稼働が増えた月が続いた。天候と系統事情の脆さが露呈した場面が多かったとみられる。
分岐する見通し、政策の重み
長期の地図を広げると、変化の速度と方向は政策で大きく変わる。国際エネルギー機関の最新レビューでは、2024年の世界の発電で石炭が35%を占め、50年以上維持してきた「最大の電源」の地位を保ったと記す。そこからわずか一年で、上半期とはいえ再生可能が石炭を上回った事実は、潮目の変化を静かに告げている。
IEAは2025年の中間見通しで、再生可能発電が早ければ2025年にも石炭火力を上回りうると示していた。エンバーの最新データは、その到達が少なくとも上半期ベースで実現したことを描き出した形である。天候や景気で再逆転の可能性は残るが、構造的な交代劇は既に進行中だと受け止められる。
他方、米国の再生可能エネルギー見通しは向かい風が強い。IEA「Renewables 2025」は、政策変更の影響で2025〜2030年の米国の導入見通しを「ほぼ半減」と下方修正した。税控除の早期縮小や調達規制、連邦地での風力・太陽光の許認可制限などが背景にある。政策の差が、地域間の電源転換の速度差をさらに広げる恐れがある。
