クマ被害が過去最多に　2025年度230人負傷、出没3万件超で全国に警戒広がる

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2025.12.07

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全国でクマによる被害が止まらない。環境省のまとめでは、2025年度4〜11月にクマに襲われた人は全国で230人、出没件数は3万6814件に達し、いずれも統計開始以来最多となった。同じ山間の集落だけでなく、都市近郊の住宅地や通学路にも注意喚起の張り紙が増えるなか、「このリスクを誰がどう減らしていくのか」が問われている。

クマはどこまで日常に近づいたのか

被害の集中は東北地方だが、もはや「遠い地域の出来事」とは言い切れない。人的被害の多い県は秋田が66人、岩手が37人、福島が24人と続き、出没件数も秋田だけで9852件に達した。一方で東京都内でも142件の出没が報告され、都市部の生活圏のすぐ外側までクマが接近していることがうかがえる。

時間軸で見ても異常さが際立つ。2025年10月の出没件数は1か月で1万5745件と初めて1万件を超え、統計の枠組みができてからの月別最多を更新した。その結果、4〜11月の累計出没は3万6814件となり、過去最多だった2023年度の年間件数2万4348件を短期間で大きく上回っている。

こうした数字は、山仕事や農作業だけでなく、通勤や通学、散歩といった日常の行動ともリスクが重なりつつあることを意味する。多くの自治体では見回りの強化や、子どもの集団登下校、山菜取りの自粛要請など、住民側の行動を変える対策も進むが、「どこまで日常を制限すべきか」という戸惑いの声も出ている。

環境省の対策強化、そのねらいと限界

環境省は、2年連続で「過去最悪」を更新する事態を受け、制度面のてこ入れを重ねてきた。2023年度の人身被害は4〜11月で212人、死者6人と、それまでで最も深刻な状況だった。それを上回るペースで2025年度は死者13人に達しており、人的被害の抑制が急務となっている。

こうした中で2023年末には、クマを「指定管理鳥獣」に位置づけることも視野に入れた専門家検討会が立ち上がった。指定されれば、捕獲にかかる費用を国が重点的に支援しやすくなり、自治体による計画的な個体数管理につなげる狙いがある。財政面での後押しを強めることで、現場任せになりがちだった対策を国の政策として位置づけ直そうとしている格好だ。

さらに2025年11月には「クマ被害対策パッケージ」が改訂され、元警察官や元自衛官に対する狩猟免許取得の支援や、狩猟免許を持つ公務員いわゆるガバメントハンターの確保に向けた補正予算での支援が打ち出された。高齢化で地元の猟友会員が減るなか、危険な出没現場に迅速に対応できる人材をどう確保するかが、制度設計の核心になりつつある。

被害を減らしつつ、クマとどう距離を取るか

記録的な出没は、山間部の農林業や観光の不安にもつながる。果樹園や田畑の荒らし被害が続けば収入の減少につながり、登山道や観光地周辺での出没情報が相次げば、客足が遠のく懸念もある。TBSとBloombergの報道でも、農作物被害やキャンセルの増加など経済面への影響が指摘されている。

一方で、クマの生息域の広がりや山の餌となる木の実の不作、里山管理の変化など、背景には複数の要因が絡み合っていると専門家はみている。個体数の抑制と生活圏への侵入防止、そして本来の生息地の環境保全をどのように組み合わせるかは、単純な駆除だけでは解決しない長期的な課題だ。環境省が四国山地で進めるツキノワグマの生息調査なども、そうした基礎データの蓄積を狙った取り組みといえる。

必要なのは、地域ごとのリスク評価にもとづいて、どこで捕獲を強め、どこで人とクマの距離を保つ工夫を優先するのかを丁寧に決めていくことだろう。監視やパトロール、人材育成には費用も時間もかかるが、その負担を国・自治体・地域社会の誰がどのように分担するのかが、これからの議論の焦点になっていくはずだ。