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ショーケースに苺のショートが並ぶ昼下がり、仕込み台では卵が次々に割られていく。だが、その仕入れ値はこの秋も上向いている。JA全農たまごの公表値では、東京のMサイズ基準値が10月に1kgあたり325円。2023年春の高騰期に迫る水準で、年末商戦を前に洋菓子店の原価を押し上げている。背景には昨シーズンの鳥インフルと記録的猛暑の影響があるとみられる。
価格は再び「春の峰」に近づく
JA全農たまごの「最新のたまご相場」は9月26日 09:00の時点で東京M基準値325円と示す。加えて「月ごと」の公表値でも、2025年10月の東京M基準値は1kgあたり325円となり、9月の320円からじわりと上げている。看板商品の原材料が静かに高止まりへ戻りつつある姿が浮かぶ。
比較の物差しは2023年の春だ。あの春の東京Mは4月・5月がともに350円だった。現在の325円はその峰に迫る。前年同月の2024年10月275円と比べても約50円高い。エッグショックの記憶が、年末の厨房でふたたびよぎる。
ケーキの売り場はこれからが本番である。生クリームや苺の手当てに加え、スポンジのベースとなる卵の数量と仕入れ単価をどう見立てるか。値動きは、予約の受け方やサイズ展開、限定品の設計にまで影響を及ぼすとみられる。
供給を揺らした病と暑さ
昨シーズンは病が養鶏の足元を揺らした。10月17日、北海道の家きん農場で今シーズン初の高病原性鳥インフルエンザが確認された。以降、冬から春にかけて各地で発生が続き、防疫措置と殺処分が断続的に行われた。生産の再立ち上げには時間がかかる現実がにじむ。
採卵鶏の群れが入れ替わるタイミングは限られ、飼養密度の調整にも猶予がいる。供給の谷が生まれると、市場は早く反応する。卸値の基準は日々の市況を映す鏡で、在庫と需要の微妙な綱引きを映し出す。価格の弾力が薄くなる局面が続いたと映る。
追い打ちをかけたのが暑さだ。気象庁によれば、2025年夏の日本の平均気温は統計開始以来で最も高く、平年差は+2.36℃。日照時間も広範囲で多かった。暑熱は鶏の採食と産卵に負荷を与えやすく、夏場の産卵率低下が秋口まで尾を引いたとの見方が広がっている。
洋菓子店は何を守り、どこを動かすか
洋菓子の厨房では、卵はスポンジにもクリームの下地にも欠かせない。仕込みのたびに大量の卵を割り、泡立て、焼き上げる。香りやきめの細かさは卵の鮮度と配合で決まるため、単純な代替は難しい。品質を落とさず原価を抑える工夫が問われている。
現場で広がる打ち手は、小さな積み重ねだ。焼成ロスを減らす配合の微調整、サイズやカットの見直し、予約制による需要の平準化。一方で値付けは慎重で、看板商品の価格は据え置き、限定品で原価を吸収するなどの匙加減が続く。消費者の納得感をどう確保するかが鍵になる。
供給の正常化が進めば、価格は緩やかに落ち着く余地もある。ただ、国際相場や為替、エネルギー価格の波は読みにくい。年末に向け、卵の市況は細かな上下を繰り返すだろう。厨房の横顔には、原材料の一つひとつを見直しながら、季節のケーキを守ろうとする静かな執念が宿る。