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冷えた雨が土を重くするなか、ドネツク州ポクロフスクの周縁で爆音が絶えない。2025年10月29日、ウクライナ側の軍・政府筋と複数のオープンソース分析が、この要衝にロシア軍が迫り、防衛側が侵攻阻止に苦戦していると相次いで伝えた。一方でキーウは、前進には甚大な犠牲が伴っていると強調する。互いの主張がぶつかる最前線の像が浮かぶ。
ポクロフスクへ圧力が強まる
前線の長さはおよそ1250キロに及ぶとされるなか、ポクロフスク周辺が「最も困難だ」との認識が29日の指導部発言からにじむ。市街地の一部ではロシア側の小規模部隊が浸透し、北や北西の外縁へにじり寄る動きが伝えられている。現時点で確認されている範囲では、気象条件の悪化が地上接近と無人機の運用の双方に影響し、戦場のリズムを変えているとみられる。
オープンソース分析「DeepState」は29日、歩兵の待ち伏せとドローン攻撃の組み合わせで、隣接するミルノグラードへの補給路が断たれたと主張した。ウクライナ側が前進阻止に小規模分遣隊ではなく旅団規模の投入を要すると警告し、「状況は危機的状況の瀬戸際」と表現した点も注目に値する。ただし、補給路の完全遮断を巡っては独立検証が難しく、局地的な一時遮断の可能性を含め、評価には幅があると映る。
ウクライナ側軍当局は、ロシア軍が約1万1000人規模の兵力を投入し包囲を試みているとの見立てを示したとされる。数値は当局推計に基づくとみられ、正確な兵力配分は把握が難しいが、ここ数週間で同地域への部隊集中が進んだという指摘は複数の分析で重なる。兵力密度の上昇は火力と偵察の頻度を引き上げ、防衛線の薄い継ぎ目を突く試みが増えている現状を物語る。
食い違う主張、戦場の実像は
29日夜、ゼレンスキー大統領は動画演説で、ポクロフスク周辺を「この数週間で戦闘行動が最も激しく、ロシア軍の兵力が密集している」と語った。この発言は、同地域がドネツク州西部の鉄道・道路網の結節点であり、前線全体の支援と住民避難の両面で重い意味を持つことを示す。重要拠点の圧迫が続けば、補給や回転の遅滞が連鎖し、前線の柔軟性が削がれる懸念が広がっている。
これに対しロシア側では、プーチン大統領が29日、ポクロフスクとハリコフ州クピャンスクでウクライナ軍を包囲したと主張した。だがウクライナ軍はクピャンスクの包囲を「空想だ」と一蹴し、ポクロフスクも包囲されておらず補給路は維持していると反論した。双方が相手の弱体化を印象付けたい思惑は明白で、戦況説明は常に宣伝戦の要素を帯びる。独立機関による現地確認が限られる以上、断定は避けるべき局面が続く。
一方で、最前線の兵士と住民にとっては数字よりも日々の安全が優先される。ポクロフスクの地下シェルターには、断続的な爆音に肩をすくめる人々が集まり、ミルノグラードでは薄暗い明け方に救急車のサイレンが走る。クピャンスク周辺も「依然として困難だが支配力は増している」との政府側説明が続くなか、局地的反撃と陣地維持のせめぎ合いが続き、天候と消耗が勝敗を左右する絵柄が広がっている。
