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無線に流れる地名が増えた。2025年11月16日、ロシア国防省はウクライナ南東部ザポリージャ州での前進を主張し、リブノピリャ（Rivnopillia）とマラトクマチカ（Mala Tokmachka）を制圧したと発表した。要衝オリヒウ（Orikhiv）やフリャイポレ（Huliaipole）への圧力が増す構図だ。ウクライナ側の公式確認はまだないが、戦線の重心が静かに揺れている。
小さな集落が開く道筋
2つの地名は地図上では小さくても、線の意味を変える。マラトクマチカはオリヒウまで約9 km。砲兵の前進や補給線の短縮を許す位置にあり、前線の縁を押し広げる。ロシア側はこの突破口を支点に、南北から圧力をかける狙いをにじませる。
フリャイポレは広域の結節点で、道路と集落が連なる帯の要だ。リブノピリャの喪失が確定すれば、防御線の屈曲が深まり、側面への負担が増す。親ロシアの軍事ブロガーも、マラトクマチカを「オリヒウへの玄関」と位置づけ、戦術上の重みを強調している。
親ウクライナ系の戦況地図の解析では、ここ6週間でザポリージャと隣接州の広い帯で少なくとも30 kmの前進が生じたとされる。個々の集落の攻防は局地的でも、積み重なると補給と射程の方程式を変え、次の目標の輪郭を濃くする。
防衛を支える退きと避難
ウクライナ側はここ数日、いくつかの村から防御に適した線へ部隊を移したと説明してきた。人的損失を抑えるための再配置であり、前進の勢いを鈍らせたと主張する。リブノピリャ周辺でも、その判断が先行した可能性がある。
前線近傍では住民の動きも急いだ。フリャイポレでは組織的な退避が進み、ザポリージャ州内の別の集落でも家族と子どもの避難が指示された。厚い霧や無人機（ドローン）の活動が続く環境で、自治体は短時間での判断を迫られている。
戦術的な退きは敗走とは異なる。砲兵と対無人機の網を重ね、装備の消耗を抑えつつ線を保つ。兵力密度の不足が続く中、どこで粘り、どこで下がるかの分岐が増え、戦線は直線ではなく波打つ帯として描かれ始めている。
支配の割合と残る距離
ロシアはザポリージャ州の約75%を支配していると主張する。一方で州都ザポリージャなど、主要な行政・産業の拠点は依然ウクライナが握る。数値の大きさよりも重要なのは、道路網と高地、河川を押さえる“質”の分布である。
仮にマラトクマチカ周辺の態勢が固まれば、オリヒウ正面の圧迫は強まり、フリャイポレ方面には挟撃の構図が近づく。それでも都市部の攻略には砲弾、歩兵、工兵の積み増しが不可欠だ。進撃の速度と補給の重さが、次の一手を決める。
