サムスン電子の研究機関SAITが開発、NAND動作時電力を96%削減

サムスンがNAND電力96%削減へ 新トランジスタ構造をNatureに発表

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サムスン電子の研究機関Samsung Advanced Institute of Technology(SAIT)は、NANDフラッシュメモリーの動作時電力を従来比最大96%削減できる新しいトランジスタ構造を開発し、その成果を11月26日付で英科学誌「Nature」オンライン版に発表した。強誘電体と酸化物半導体を組み合わせた素子で、高い記録密度を維持したまま電圧を大きく下げられる点が特徴だ。AIデータセンターの電力負担やスマートフォンの電池持ちといった身近な課題に、メモリー側からどこまで切り込めるのかが問われ始めている。

AIサーバーとスマホ、静かに広がる省エネの余地

生成AIの普及でデータセンターのサーバー群は日夜フル稼働し、その電気料金や排熱対策が運営コストの重荷となっている。中でもNANDフラッシュは、大量の学習データやユーザー情報を保存する基盤であり、積層構造が高度化するほど読み書き時に必要な電圧が増え、ストレージだけで無視できない電力を消費してきた。今回示された新構造では、セル列を動かす際の「パス電圧」をほぼゼロに近づけつつ、最大で96%の省電力化を実現したと報告されている。

電力を抑えながらも、1セルあたり5bitの情報を書き込める多値動作を確認した点も重要だ。現在主流の3bit(TLC)や4bit(QLC)を上回る水準であり、同じチップ面積でもより多くのデータを扱える可能性がある。AI向けサーバーでは、演算用GPUの電力ばかりが注目されがちだが、保存装置の効率が上がれば、システム全体の消費電力量と冷却負荷を同時に抑えやすくなる。電力制約が厳しい国内外のデータセンターが、この種の技術に強い関心を寄せる理由である。

影響はクラウドだけにとどまらない。スマートフォンやノートPCでは、写真やアプリのデータを格納するフラッシュメモリーのアクセスが頻繁に発生し、待機時の細かな電力消費がバッテリー持ちを左右する。もし将来、この超低消費電力技術が製品に組み込まれれば、同じ容量でも電池寿命を延ばしたり、筐体の薄型化やカメラ画質向上といった別の設計余地に電力予算を回したりする選択肢が広がる。CPUや通信チップに続き、「ストレージのワット性能」を巡る競争も本格化しつつある。

「容量か省電力か」の壁に挑んだ新トランジスタ

従来の3D NANDは、メモリーセルを縦方向に多数積み上げ、直列につないだ「ストリング構造」をとる。この構造では、奥のセルにアクセスする際、手前のセルを次々と通過させるための高い電圧が必要になり、層数が増えるほど無駄な電力が増大するという構造的な弱点があった。電圧を下げれば省電力にはなるが、その分だけ信号のマージンが縮み、多値記録の段数を減らさざるを得ないというトレードオフも、研究者を長く悩ませてきた。

SAITなどの研究チームは、このジレンマを解く鍵として、ジルコニウムを添加したハフニア強誘電体と酸化物半導体チャネルを組み合わせた強誘電体電界効果トランジスタ(FeFET)を採用した。酸化物半導体は、しきい値電圧の制御が難しいという理由で高性能デバイスには不向きと見なされることもあったが、強誘電体と組み合わせた新しいNAND構造では、むしろその特性が「低電圧でも情報を確実に読み分ける」仕組みに結び付く。結果として、ストリング全体の動作電力を大幅に減らしながら、多値動作と高集積を両立できる可能性が示された。

論文では、このFeFETを従来のNANDと同様に縦に積層した3次元構造にしても特性が保てることが報告されている。チャネル長が数十ナノメートル級の微細なセルでも安定動作したとされ、大量集積への道筋もある程度描かれた形だ。他方で、MRAMや抵抗変化メモリなど、別方式の不揮発メモリも低消費電力と高速性を武器に研究・製品化が進んできたが、コストや記録密度の面でNANDを完全に置き換えるには至っていない。既存プロセスとの親和性を保ちながら省電力化を図る今回のアプローチは、業界にとって現実解の一つとして映っている。

次世代NAND競争と、日本勢に突き付けられる選択肢

サムスン電子はNANDフラッシュ市場で最大級のシェアを持ち、AI向けSSD需要の拡大を追い風に事業を伸ばしてきた。今回のような基盤技術は、すぐに量産品へ直結するわけではないが、将来の3D NAND世代の設計方針や、データセンター向け製品の省電力グレードを差別化するうえで重要な手札となる。メモリー各社が容量や単価だけでなく、「処理した1ビットあたりにどれだけ電力がかかるか」という指標で競う局面が、より鮮明になってきたと言える。

もっとも、Natureに掲載された段階では、あくまで研究レベルの実証に過ぎない。実際の製造ラインに乗せるには、書き換え耐久性やデータ保持特性、歩留まりや材料コストといった課題が残る。加えて、サーバー全体のエネルギー効率は、メモリー単体ではなく、コントローラのアルゴリズムや冷却設計、電源インフラなど、複数の要素の組み合わせで決まる。半導体メーカーの技術革新と並行して、クラウド事業者や機器メーカー側の省エネ設計も欠かせない。

日本国内のクラウド事業者や端末メーカーも、多くを海外製メモリーに依存している現状がある。もしストレージの電力効率で大きな差が生まれれば、同じ処理能力を提供するための電気料金や設備投資に、見えないコストギャップが開きかねない。国内企業にとっては、海外メーカーとの共同開発や、別方式メモリの開拓、あるいはソフトウェア側でのデータ削減といった多様な手段を組み合わせて、電力制約に向き合う必要があるだろう。誰がどの範囲まで電力コストを負担するのかという長期的な争点を、今回の研究は静かに突き付けている。

参考・出典

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