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巡視船のスピーカーが低く響き、白い船体が互いに距離を保つ。2025年11月5日、第十一管区海上保安本部は尖閣諸島周辺の接続水域で中国海警局の船4隻を確認したと発表した。艦番号は海警1302、1305、1307、1303。いずれも機関砲を備え、領海に近づかないよう警告が続いた。尖閣周辺での航行確認は13日連続になったという。緊張の糸は細く、しかし長く張り詰めたままだ。
4隻の動きと現場の対応
4隻は接続水域の外縁をなぞるように隊形を変え、海保の巡視船は並走や前方抑止で動きを管理した。船橋から発せられる英語と中国語のアナウンスが短く繰り返され、スピーカー越しのやり取りが海面に反響した。進路を横切らせないよう距離を確保し、周辺の漁船には無線で注意喚起が入った。警笛や電光の合図は最小限に抑えられ、静かな緊張だけが場を満たした。
公表された艦番号はいずれも機関砲を搭載するタイプで、航走中は砲口の覆いが確認されたとされる。現時点の発表では、各船の速力や方位は一定幅で推移し、単独で領海に向けて急激に変針する動きは取られていない。巡視船は船体番号を視認しながら、写真撮影と記録の取得を続けた。可視化された行動ログが、次の判断を支える土台になっていく。
現場では、万一の接近を想定した針路規制の準備も並行した。漁船の操業線に近づく場面では、保安官が甲板で手旗と拡声器を併用し、相手機のコールサインを呼びかける。並走が長引くほど疲労は蓄積するが、乗組員の交代や燃料補給の手順は定型化され、長期の警戒に耐える運用が淡々と続けられた。無事に日をまたぐこと自体が、成果のひとつになっている。
連日の確認が映す変化
周辺海域では、確認の積み重ねが日付を越えて続き、最長記録を更新する局面が相次いだ。海域の常在化は、偶発的な接触を避けるための手順を一段と細かくし、記録と通報の流れを堅くした。海保は従来通りの法執行を軸に、隊区の配置や無線の優先順位を見直し、現場判断の幅を保ちながら抑制的な対応を重ねている。海の作法を揃える作業が、日々の運用に深く染み込んできた。
艦の顔ぶれにも揺らぎがある。中型主体の編成に加え、より新しい番号帯の船が加わる日もあり、装備や艦橋の形状が並びの中で際立つことがある。航行の姿勢は静かでも、映像や画像の蓄積は増え、同じ場での反復が海図の余白を少しずつ塗りつぶしていく。変化は小刻みに、しかし途切れずに刻まれ、現場の感覚もまた微調整を重ねている。
接続水域は領海の外側に置かれた緩衝帯であり、ここでの警告は法に基づく作業のひとつだ。警笛や掲示は、相手機に進路の再考を促し、海難を避ける最低限の約束を形にする。映るのは対峙だけではない。航跡の間に挟まれた静かな水面が、その日の終わりにどれだけ保たれたかという結果でもある。穏やかさは偶然ではなく、積み上げの先に置かれている。
静かな海に残る緊張
沿岸の無線は忙しい時間帯を過ぎると声音が落ち着き、波の周期と同じ速度で報告が重なる。操業を終えた漁船からは、一定の距離が確保されたことや、巡視船の位置が目印になったといった声が寄せられる。現場の視線は、突発の変化よりも積み重ねられた常態に向けられ、日常と警戒の境が曖昧になる。見慣れた灯が、夜の入口で緊張の輪郭を静かに照らした。
夜の見張りが交代を迎えるころ、航海灯の光だけが海面を縫う。記録係はその日のログを閉じ、次の当直に引き継ぐ。大きな動きがない日は、ページの余白が広い。だが、余白が続くこと自体が作業の成果であり、翌日も同じ余白を確かめる準備が始まる。海は静かでも、鉛筆の芯はいつも削られている。静けさの裏で、注意だけが途切れずに続いている。
