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展示館の準備作業が進み、尖閣をめぐる新しい解説パネルが並ぶ。日本政府は、領有を主張する中国が歴史的に自国の領域外と認識していたことを示す文書の一部を公開し、2025年11月14日から東京・虎ノ門の「領土・主権展示館」で掲示する。2025年11月6日に政府関係者が明らかにし、日本固有の領土だとする立場を具体的資料で示す狙いだ。
新たに示される3点の史料
展示の核となるのは3点だ。まず1950年に中国外務省が対日平和条約をめぐる内部議論のために作成した文書で、名称に中国側の「釣魚島」ではなく日本名の「尖閣諸島」を用い、琉球の一部として整理している点が焦点になる。現在、中国側はこの内部文書を非公開と位置づけているとされ、内容の客観的提示が議論の出発点になる。
2点目は1889年に日本の実情を探る目的で滞在した清の役人による報告書、3点目は1895年の台湾受け渡しに関わる公文と高官会談記録だ。いずれも当時の清朝が尖閣を自らの領域内とみなしていなかったことをうかがわせる資料として位置づけられる。1点目と2点目はこれまでも政府の啓発資料で引用されてきたが、台湾関連の公文は初めて一般に示すとされ、展示の新味となる。
狙いと受け止め
背景には、尖閣周辺で続く中国公船の活動がある。日本側は「領土問題は存在しない」との姿勢を維持し、実効的支配と法的根拠の双方を国内外に分かりやすく伝える必要が増している。政府担当者は「中国側の認識を客観的に示すことで、日本の立場を補強する」と語り、資料の原文表記や作成年代を軸に、主張ではなく史実の積み上げで伝える構成を採るという。
一方で、中国は1971年以降に「古くからの中国の領土」との主張を強めてきた経緯がある。資源探査の進展と重なる時期でもあり、歴史解釈と現代の安全保障環境が絡み合って論点は複層化した。今回の展示は相手の主張を直接否定するものではなく、当時の自国資料や外交過程を静かに並べる手法をとる。政治的メッセージを前面に出さず、資料が語る範囲にとどめる構えがうかがえる。
展示館で何を見るか
会場は虎ノ門の常設スペースだ。既存の年表や地図に加え、今回は3点の史料を読み解くためのパネルを補い、当時の表記や文脈を丁寧に示す。特に1950年文書は語句の選び方と行政区分の扱いが要で、翻字や注記の付し方が理解を左右する。係員の解説と併せて見れば、資料の出どころ、作成目的、後年の立場とのずれを自分の目で確かめられる構成になるはずだ。
史料展示は結論を押しつけるものではない。閲覧者は当時の地図や官衙名、交渉記録の文言から、行政の実務がどのように領域認識を形づくっていたかを追える。地名の選択や注記の有無といった一見細部に、外交の体温が宿る。パネルを離れる頃には、争点の大きさに比べて史料の声が驚くほど静かであることに気づく。静けさが積み重なるほど、判断の輪郭もまた見えてくる。
