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砂漠の寒気を裂く白い炎が夜空を明るくした。2025年10月31日、中国北西部・酒泉衛星発射センターから長征2号Fが「神舟21号」を載せて離昇し、3人の乗組員を天宮に向けて送り出した。天宮が完成した2022年以降では7回目の定期有人ミッションであり、約6カ月の在軌運用を担う乗組員交代の節目となる。
打ち上げの概要
神舟21号は酒泉の発射台から長征2号Fで打ち上げられ、天宮（天和コアモジュール）へのクルー輸送任務に就いた。天宮完成後の運用としては通算7回目で、継続運用の一環として地上の気象・機体状態を見極めた上での“定常打ち上げ”である。中国はスペースステーション常時有人体制の中でクルー交代を重ね、打ち上げの間隔や作業手順を標準化してきた経緯がある。
打ち上げ後、神舟21号は自動ランデブーを進め、約3.5時間で天宮に到着・ドッキングした。これは同国の従来運用より約3時間短い“最速”であり、交会誘導・姿勢制御・機上計算の最適化が進んだことを示す。到着後は神舟20号の乗組員と短期間の重複滞在で引き継ぎを行い、神舟20号は数日のうちに帰還する見通しだ。
乗組員と最年少飛行士
乗組員は3人。指令長は張陸で、2022〜23年の神舟15号を経験するベテランだ。飛行エンジニアの武飛は32歳で、有人飛行に参加した中国の宇宙飛行士として最年少記録を更新した。ペイロードスペシャリストの張洪章は材料・エネルギー分野の研究者出身で、武飛とともに今回が初飛行となる。世代交代を映す編成で、運用チームの若返りが進む。
若手の登用は常時有人ステーションの成熟と表裏一体だ。司令の経験者を中心に、初飛行の専門家が実験運用や船外活動の一部を分担する構図が定着しつつある。任務の標準化と訓練体系の整備が、年齢レンジの拡張とタレントプールの厚みをもたらしていると映る。
計画と科学ミッション
神舟21号の在軌期間は約6カ月。材料・バイオテクノロジー、宇宙医学など計27件の科学・応用プロジェクトを計画し、プラットフォームの維持管理や船外活動も組み込まれる。ステーションの通常運用と並行し、補給・廃棄物処理・実験試料の回収など“地上↔軌道”の循環も運用評価の対象となる。
現時点で確認されている範囲では、実験の一環として4匹のマウスが搭乗し、微小重力下での行動・繁殖関連の基礎データ取得が試みられる。小型哺乳類の天宮持ち込みは初で、短期滞在後に回収する計画だ。生体の適応応答や緊急時の行動評価など、有人深宇宙探査に向けた基礎知見の拡充が狙いとみられる。
意義と今後の見通し
天宮は2022年の完成以降、半年周期のクルー交代を重ね、運用の平常化が進んでいる。今回の神舟21号は、その“定常運用の質”をどう高められるかを映す指標にもなる。若手の投入と高速ドッキングは、組立・整備フェーズから利用・発展フェーズへ移ったステーションの成熟度を示すシグナルである。
中国は有人月面着陸を2030年までに実現する目標を掲げ、地上・軌道双方での技術実証を積み上げている。ステーションでの医学・材料・生命科学の成果は、長期滞在や深宇宙飛行に不可欠な設計条件の洗練に直結する。神舟21号の成果と運用データは、次の有人飛行計画と月面探査ロードマップの実行性評価に反映されていくはずだ。
数値まとめ：発射日時＝2025年10月31日 23:44（中国・酒泉、（日本時間では11月1日 00:44））、発射場所＝酒泉衛星発射センター、ロケット＝長征2号F、乗組員＝張陸（48）・武飛（32）・張洪章（39）、滞在＝約6カ月、天宮完成後の有人ミッション通算＝7回、ドッキング所要＝約3.5時間、科学・応用プロジェクト＝27件、実験動物＝マウス4匹。
