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議場にざわめきが広がった。2025年11月4日、衆院本会議の代表質問に臨んだ高市早苗首相は、造船を経済と安全保障を支える基盤と位置づけ、建造能力の抜本強化に向け工程表の策定と民間投資を押し出す姿勢を示した。足元の物価と賃金の関係、そして防衛費の水準をめぐる答弁も相次ぎ、政権が描く「強い経済」と「持続可能な防衛力」の骨格が立ち現れたとみられる。
造船を国の背骨に、工程表づくりへ
首相は、造船を「経済・安全保障を支える極めて重要な産業」と位置づけ、船舶建造能力を引き上げるためのロードマップを策定する考えを示したとされる。議場では、老朽化したドックや設備の更新、人材・技能の承継までを一体で押し上げる必要性をにじませる場面が続いた。海運・造船の現場では受注回復の兆しがある一方、波を逸するまいと投資判断を急ぐ空気が漂う。
与党側は、国内造船の再生に向け政府・民間で1兆円規模の投資を可能にする基金の創設を提唱してきた。自民党の会合では、各社の設備投資計画の積み上げとともに、自己資金と公的支援をどう組み合わせるかが議論となり、基金の必要性が強調されている。産業競争力の回復と安全保障の両面で国主導の梃子が求められている構図が浮かぶ。
一方で、与党の緊急提言は、具体策や投資規模を盛り込んだ工程表の策定を政府に求めてきた経緯がある。官民の役割分担、艦船を含むサプライチェーンの強靱化、同志国との連携まで視野に入れた再生策は、実行段階での人材・資材の確保という現実の壁に直面する可能性が高い。代表質問での「大胆な措置」の中身が、どこまでこの壁を越える設計になっているかが焦点になる。
物価と賃金、「道半ば」の意味
首相は、物価上昇が続く状況下でも、賃金上昇を伴った持続的・安定的な物価の実現は「道半ば」との認識を示したとされる。賃上げが消費マインドと企業収益を押し上げ、投資の好循環へとつながるとの構図は語られて久しいが、家計の実感が追いつかない場面はなお多い。エネルギーや物流のコスト転嫁が広がるなか、インフレと成長の質をどう整えるかが問われていると映る。
政権は「責任ある積極財政」を掲げ、戦略分野への集中投資で所得と需要を押し上げる設計を描いている。日銀の2%物価目標と歩調を合わせつつ、賃金・価格・生産性の三位一体で持続性を担保するという青写真だ。その一方で、財政規律や税制の見直しをめぐる政治的コストは重い。食品の税率をめぐっては、レジ改修など事業者負担への配慮が必要との立場も示し、拙速を避ける含みを残したとみられる。
内外の物価圧力は不安定で、賃上げの定着にも地域差と企業規模の壁がある。中小企業の価格交渉力や労働移動の円滑化、社会保険負担の見直しといった地道な制度整備が、物価目標の「安定的な実現」を支える。10月の所信表明でも、地域の活力や投資促進の重要性が繰り返されたが、補正予算編成の工程と併せ、生活者が実感できる速度で成果を示せるかが試される。
防衛費2%と政局の駆け引き
防衛費をめぐっては、自衛隊の人的基盤強化などを通じて、結果的に国内総生産比2%水準の達成に至るとの説明を行ったとされる。装備と維持整備、弾薬・防衛産業の底上げに加え、サイバー・宇宙・無人領域の運用力を組み込むには、単年度の予算計上以上に継続的な調達と人材確保が要る。目標の「前倒し達成」を問う野党の追及は、数字だけでは測りにくい実動の裏付けを迫る格好になっている。
代表質問では、前政権期の経済政策への評価や財政健全化目標の先送りリスクも俎上に載った。首相は、過去の政策が「デフレではない状況」を作った一方で成長戦略の課題は残るとの趣旨を述べたとされる。市場との対話、格付け、金利動向を横目に、成長投資と債務の持続可能性をどう両立させるか。防衛費の水準が国民生活にどう配分されるかを含め、政治の説明責任は重くなる。
外交をめぐるやりとりでは、米大統領に関連する過去の報道に関する野党側の問いかけに対し、首相が答弁を差し控えた場面もあったと伝えられる。安全保障環境の変化が厳しさを増す中で、内外の視線は言葉の一つひとつに敏感だ。造船の現場から議場の空気まで、国のかじ取りは具体と抽象の間を揺れながら進む。工程表の最初の一歩が、静かに、しかし確かに問われている。
