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白い粉体を収めたドラム缶が静かに並ぶ港の岸壁に、新しい供給網の輪郭が浮かぶ。双日は2025年10月30日、オーストラリア由来のレアアースの輸入を始めたと発表した。西豪州マウント・ウェルドの鉱石をマレーシアで分離・精錬した製品で、同社調べで日本向け輸入の初事例とされる。電動化の基盤素材を巡る地図が書き換わり始めている。
豪州から日本へ、初動が示すもの
双日が始めたのは、豪ライナス・レア・アースが手がけるレアアースの日本向け輸入である。発表は2025年10月30日。対象は永久磁石の耐熱性向上に不可欠なジスプロシウム(Dy)とテルビウム(Tb)で、同社はこれを日本市場に届ける供給体制を稼働させたと位置づける。初動の一歩に、長らく模索されてきた供給源の分散が重なる。
ルートは明快である。原料は西豪州のマウント・ウェルド鉱山で採掘し、マレーシアの分離・精錬拠点で製品化、その後に日本へ輸送される。豪州産の鉱石をマレーシアで分離・精錬した重希土類の日本向け輸入は、同社調べで初の事例とされる。鉱山から製品までの工程が可視化され、追跡可能性にも一段の意味が加わったと映る。
レアアースは他金属に微量添加することで磁力や耐久性を底上げする性質を持つ。電気自動車や産業ロボット、風力発電など熱を伴う現場では、ジスプロシウムやテルビウムの存在がモーター磁石の性能を左右する。輸入開始は数量の大小だけでは測れない重さを帯び、産業の微細な歯車を支える物質の「道」を具体化した一歩といえる。
偏在に向き合う供給網の再設計
背景には、供給の偏在という長年の課題が横たわる。双日とJOGMECは2023年、豪州ライナス社への出資を通じ、マウント・ウェルド由来のジスプロシウムとテルビウムの日本向け供給契約を結んだ。最大65%を日本向けに振り向ける枠組みで、重希土類の安定供給に道筋を付ける狙いが示された。今回の輸入開始は、その延長線上にある実装段階とみられる。
供給網の再設計は、単に代替ルートを増やす作業ではない。鉱石の産地、分離・精錬の拠点、最終需要の各地点を結ぶ物理的な動線に、資本と長期契約を重ね、工程の立ち上げと品質安定を同時並行で進める営みである。マレーシアでの分離・精錬が本格運転に近づくにつれ、日本側での受け入れと加工の平準化も問われる局面が続くとみられる。
政策の側でも、重要鉱物のサプライチェーン強靱化が掲げられてきた。重要品目のリスク特定から国際連携まで、分散と冗長性を意識した設計が主題である。企業の投資判断と政策の後押しが重なる時、原料の出どころと工程の分担は初めて持続可能な姿を帯びる。今回の輸入は、その接点に具体的な輪郭を与えたといえる。
連携の積み重ねと次の焦点
双日は1960年代からレアアースを扱い、2011年にはライナスの軽希土類で日本向け独占販売契約を結んできた。2023年の追加出資と供給契約は、その延長線で重希土類へと守備範囲を広げた節目である。採掘、分離、精錬、販売という分断されがちな工程を、長期の資本関与と需要家との結び付けで束ねる姿勢がうかがえる。
一方で、重希土類は量より質が物を言う素材でもある。磁石メーカーの仕様に即した品位や不純物管理、ロット間の再現性が確保されて初めて、安定供給は実体を持つ。商業生産の立ち上げ局面では、受渡しのテンポと品質保証をすり合わせる時間が不可欠だ。輸入開始はスタートであり、供給の「呼吸」を整える段取りが続く。
秋晴れの会見場に交わった安堵と緊張は、現場の静かなドラム缶にも通じる空気をまとっていた。いくつもの手を介して届く少量の粉体は、やがて車や産業機械の内部で熱に耐える磁石へと姿を変える。重希土類の道筋が一本増えたという事実は、遠くの鉱山と身近な製品をたしかに結び直している。
