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ロンドンのサザーク刑事法院が2025年11月11日、暗号資産の洗浄に関与した中国籍の銭志敏（Zhimin Qian）被告に禁錮11年8か月を言い渡した。英国警察は6万1000BTCの押収を「確認済みで世界最大」と位置づける。中国で12万8000人規模の被害が生んだ重い結末であり、判決は犯罪収益と暗号資産の境界に厳しい線を引いた。
判決が示したこと
量刑を担当したサリー＝アン・ヘイルズ判事は「動機は純粋な強欲」と述べ、被告を計画立案から実行まで主導した人物と断じた。公判では、犯罪収益移転を禁じる英国のProceeds of Crime Act（犯罪収益の没収等を定める法律）に基づき、有価暗号資産の保有と移転が有罪と認定された。欧州の一部メディアは被告を「クリプトクイーン」と呼んできたが、法廷の評価は華やかな呼称と対照的である。
押収量は市場の値動きで評価額が揺れるが、当局は現在約48億ポンド規模と説明する。今後は刑事の没収に加え、民事の手続きで配分の可否や範囲が詰められる見通しだ。被害者側は英国の制度を通じた回復を望む一方、資産の変動性が補償設計を難しくする現実もある。
共犯として起訴されたセン・ホック・リン被告には4年11か月の判決が言い渡された。事件は英国で過去最大級のマネーロンダリング事案とされ、警察と検察は長期にわたる連携の末に到達した結論だ。暗号資産がからむ経済犯罪の「規模」と「可視化された資産」という異質さが、法執行の枠組みに重くのしかかった。
仕組みと広がり
中国での詐取は、健康関連や採掘事業をうたい高配当を約束する投資名目で拡大した。会社名は藍天格瑞（Lantian Gerui）とされ、募集で集めた資金の一部が配当に回る仕組みが疑われた。資金流入が続く限り魅力的に見える構造は、生活資金や年金にまで手を伸ばさせ、多数の家計を脆くした。
集められた原資の相当部分はBTCに転換され、デジタル財布で保管された。ブロックチェーンは公開台帳で追跡自体は可能だが、名義や所在の実体把握には別の捜査手段が要る。暗号資産が「隠す」と「見える」の両面を併せ持つことが、今回の立件でも特徴的に現れた。
英国側での現金化の試みは不動産購入に向かった。ここで壁となったのがKYC（顧客確認）だ。高額取引では資金源の説明が必須で、説明不能は異常検知の合図になる。事件では、この段階の違和感が金融仲介と捜査当局を結び、押収と立件へとつながった。
逃亡と捜査の行方
被告は2017年に偽造旅券を用いて出国し、ロンドン北部の高額賃貸に身を置いた。高額な家賃を賄うには保有資産の現金化が必要で、その過程で高級不動産の購入計画が浮上する。華美な暮らしの陰で、身元や資金源を偽装する行為が積み重なり、やがて矛盾は可視化された。
不動産取引の試行から約1年、警察は賃貸先を捜索し、記録媒体や貸金庫から大量の暗号資産を特定した。押収資料には、未承認のミクロ国家「リベルランド」の「君主」になるといった将来構想も書き留められていたという。壮大な夢想は、記録と資産が現実に結びついた瞬間に捜査の証拠へと変わった。
その後、被告は2024年に英北部で逮捕され、元秘書役として先に摘発されたジャン・ウェンも含め、関連人物の刑事責任が問われてきた。押収資産の扱いはこれからが本番だ。没収・分配の枠組みは被害回復の拠り所であり、価値変動と越境性という難題に、英国の制度設計が試されている。
価値が増減する資産の行き先を決めても、失われた歳月の重さだけは増えも減りもしない。
