スターシップ専用の発射台2基をSLC-37に新設　フロリダで大型拠点化が加速

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2025.12.05

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SpaceXは12月2日、フロリダ州ケープカナベラル宇宙軍施設内の第37発射施設（SLC-37）で、2基の発射台を建設する承認を得たと明らかにした。テキサス州スターベースに続き、超大型ロケット「スターシップ」の本格的なフロリダ拠点が動き出す。新たな基地整備は、周辺の暮らしと宇宙ビジネスにどのような変化をもたらすのか。

騒音と環境、雇用　基地の隣で暮らす人々のまなざし

SLC-37は、かつてデルタIVロケットが打ち上げられてきた歴史ある発射施設だが、退役に伴い設備の解体が進み、今回スターシップ用に再開発される。米空軍が公表した環境影響評価では、この場所でのスターシップ運用に一定のゴーサインが出され、インフラ改修や新たな発射台建設が認められた。一帯では道路の付け替えや燃料設備の新設も検討されており、基地周辺の景色は数年のうちに大きく変わる見通しだ。

環境面では、打ち上げ回数が増えることで騒音や大気汚染がどこまで許容できるかが焦点となる。空軍の最終評価書では、スターシップとブースターの打ち上げや着陸を合わせ、年間最大76回の打ち上げと152回の着陸を想定している。騒音レベルはロケット直近で非常に高くなる一方、広域では対策次第で健康被害は限定的とされる。ただ、深夜や早朝の打ち上げが増えれば「生活のリズムが乱れるのでは」と懸念する住民も出てくる可能性がある。

一方で、宇宙関連の雇用や投資を期待する声もある。ロイター通信によれば、SpaceXはフロリダでのスターシップ拡張に少なくとも18億ドルを投じ、2030年までに約600人の新規雇用を見込む計画を示している。工事や運用に関わる地元企業も増え、観光やサービス産業への波及も想定される。騒音や交通渋滞といった負担と、雇用や税収といった利益のバランスをどう取るかが、地域にとっての長期的なテーマになりそうだ。

2基の発射台が示す、軍と企業の「高頻度打ち上げ」戦略

今回の承認の背景には、「とにかく数多く飛ばしたい」という軍とSpaceX双方の思惑がある。米空軍の環境影響評価サイトによると、SLC-37ではスターシップとスーパー・ヘビーの発射台や着陸塔、推進剤設備などを新設し、打ち上げ前の燃焼試験も含めた集中的な運用が想定されている。フロリダ東海岸に恒常的なスターシップ拠点を持てば、テキサスにある実験色の強い基地への依存度を下げられる。

2基の発射台を同一エリアに整備する狙いは、冗長性と柔軟性の確保だ。例えば、片方をメンテナンスや改修に回しながら、もう一方で打ち上げを続けることができれば、トラブル発生時でも運用全体の停止を避けやすい。また、軍事衛星や月探査関連、民間通信衛星などミッションの性格によって使用する設備を分ければ、安全基準や作業フローも調整しやすくなる。高頻度で大型ロケットを飛ばすには、こうした「回し方」の設計が欠かせない。

米宇宙軍やNASAにとっても、フロリダでのスターシップ運用は長期計画の鍵を握る。NASAのアルテミス計画では、月面着陸船としてスターシップを活用する構想があり、フロリダからの大型物資輸送や燃料補給ミッションが視野に入る。国防分野では、大型偵察衛星や通信衛星コンステレーションの一括打ち上げにより、打ち上げ回数とコストの両面で優位に立てるとの見方もある。2基の発射台整備は、こうした「高頻度・大容量の宇宙輸送」を現実のものとするための物理的な前提条件といえる。

競合他社と規制のまなざし　「宇宙港をどうシェアするか」

ただし、ケープカナベラル一帯にはSpaceX以外にも複数のロケット事業者が拠点を構えており、大型ロケットの高頻度運用が全体のスケジュールを圧迫するとの懸念もある。ワシントン・ポスト紙は、SLC-37から年間最大76回のスターシップ打ち上げが想定されることに対し、一部の競合企業が「安全確保のための立入制限が増え、自社の打ち上げ機会が奪われかねない」と警戒していると伝えた。限られた空域と設備をどう公平に配分するかは、管制当局にとって難しいパズルになりつつある。

規制当局側も、環境と安全を両立させるルールづくりに追われている。フロリダのSLC-37では、空軍が詳細な環境影響評価と記録文書をまとめ、野生生物や湿地への影響を軽減する条件を付したうえで承認に踏み切った。一方、テキサスのスターシップ発射場では、連邦航空局（FAA）の手続きが不十分だと主張する環境団体が訴訟を起こし、司法判断の対象になった経緯もある。巨大ロケットの運用拡大は、技術だけでなく法制度や住民との合意形成も試される取り組みになっている。

スターシップが実際にどの程度の頻度でフロリダから飛び立つのかは、今後の技術成熟や需要、規制の動向に左右されるだろう。だが、2基の発射台整備という決定は、コスト低減と輸送能力向上という恩恵と、騒音や環境負荷、打ち上げ機会の偏在といった負担が、誰の肩にどのように乗るのかという問いを地域と業界に突きつけている。その答えは、建設工事が進むこれから数年の議論と実績の積み重ねの中で形づくられていくはずだ。