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政治団体「NHKから国民を守る党」の立花孝志党首に、NHK会長宅の警備費をめぐって賠償を命じる判決が出た。東京地裁は11月28日、約139万円の支払いを認定し、受信料を巡る言動が公共放送の業務を妨げたと判断した。政治的なパフォーマンスが生む警備コストを、誰がどこまで負担すべきなのかが改めて問われている。
会長宅の警備費、視聴者にも跳ね返る負担
今回の訴訟で原告となったのはNHKだが、実際に影響を受けたのは会長とその家族、そして近隣住民である。裁判所は、立花氏の発言によって会長宅周辺の警備強化が必要となり、その費用が損害に当たると認めた。およそ139万円という金額は、一つの世帯から見れば大きな負担であり、公共放送が負うコストとしても看過できない水準だ。
判決が認定した行為は、昨年9月ごろから始まった。立花氏がNHK側とのやり取りの中で、複数の契約者の受信料を代わりに支払うと主張し、応じない場合は会長宅に現金を持参するといった趣旨を伝えたとされる。受信料制度を批判する意図があったとしても、個人の居宅を具体的に名指しする発言は、生活空間に直接プレッシャーを与えるものだった。
NHKは翌11月には会長宅に警備を手配し、通常より厳重な体制を敷いた。家の出入りを見守る警備員の姿は、家族に安心をもたらす一方で、周囲の住民には不安と緊張感をもたらす。こうした費用はまずNHKが支払うが、その財源の多くは受信料であり、最終的には全国の視聴者にも間接的な負担として跳ね返る構図になっている。
「会長宅に行く」と繰り返す政治スタイルと、裁判所の判断
裁判所が重く見たのは、一度きりの発言ではなく、立花氏のこれまでの行動パターンだ。判決は、過去にもNHKの代表者宅付近で街宣活動を行ってきた経緯などを踏まえ、受信料をめぐる今回の発言も現実に行動へ移されるおそれがあったと指摘した。単なる強い言葉ではなく、具体的な実績を伴う「圧力」と受け止められた形である。
立花氏側から見れば、政治的主張をアピールするためのパフォーマンスだったという説明も成り立つだろう。しかし東京地裁は、会長宅周辺の安全確保のために余計な対応を強いた点に着目し、NHKの業務を違法に妨害したと結論づけた。業務妨害か表現の自由か、その境界線はしばしば争点になるが、今回は「自宅」というプライベートな空間が焦点だった。
さらに、神戸新聞NEXTなどの報道によれば、立花氏は兵庫県の元県議に対する名誉毀損容疑で逮捕・起訴されるなど、近年は他の裁判案件も抱えている。個人名や住所に紐づく強い発信を繰り返してきたことが、司法の場で次々と問われている状況だ。政治的メッセージの訴え方そのものが、今後の裁判の中でも厳しく検証されていく。
政治的言動と安全コスト、残された問い
今回の判決は、政治家や活動家の発言が、現場の安全対策にどこまで影響を与えうるのかを浮かび上がらせた。学校や役所、企業トップの自宅にまで警備が広がる事例は、インターネット時代の日本でも増えている。法が損害賠償を認めたとしても、警備の準備は事前に行わざるをえず、その段階では組織や周辺住民がリスクと不安を引き受けている。
表現の自由は、政治的な少数派の声を守るうえで不可欠だ。一方で、特定の個人宅を舞台にした抗議や動画配信が常態化すれば、日常生活への侵食となりかねない。今回、NHKは警備費の一部を裁判で回収できる見通しが立ったが、同様の事態が起きるたびに訴訟を繰り返すことは現実的ではない。
政治的メッセージをどのような場所と方法で伝えるのか。視聴者や有権者も含め、社会全体がそのルール作りに関わらなければ、負担は今後も現場の警備担当者や近隣住民に集中し続けるだろう。今回の判決は、その歪みを可視化した一つのきっかけにすぎない。
