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欧州訪問から帰着した台湾の蕭美琴副総統が2025年11月9日、空港で「台湾は孤独ではない」と語り、国際社会での存在感を示し続ける決意を明確にした。欧州議会で開かれたIPAC年次総会に出席し、欧州での発信を高位当局者として実現した点が注目される。動きは静かだが、回路は確かに広がっている。
欧州での発言が持つ重み
蕭氏は2025年11月7日、ブリュッセルの欧州議会で開かれたIPAC（対中政策に関する列国議会連盟）の年次総会で登壇した。主催者は、台湾の現職副総統として欧州の議会施設で演説するのは初めて級の出来事だと位置づけた。外相級の訪欧は時折あるが、副総統の訪問は極めて例外的だ。
帰着後、蕭氏は空港で記者団に対し、台湾の国際的な環境は厳しいが一歩も退かず、志を同じくする友人が世界で増えていると説明した。自信と現実主義、揺るぎない歩みで、台湾の決意と友好、民主主義の力を示し続けると語り、国際社会への参加機会の確保を訴えた。
欧州議会という舞台は、政府間の正式関係に依存しない「議会外交」の象徴である。各国議員が横断的に連携する場に台湾の要人が立ったことで、欧州側の関心が議会レベルで可視化された。承認や条約とは別の回路で、交流の土台が厚みを増したと受け止められる。
広がる接点と中国の反応
欧州の一部では、半導体やサプライチェーンの安全保障を背景に、台湾との実務的な往来が静かに広がっている。今回の総会にも複数の国会議員が参加し、経済協力や民主主義の価値を軸にした対話が続いた。形式より実質を重ねる動きが、各所で芽吹いている。
一方で、中国の駐EU代表部はこの訪問を内政干渉だとして非難し、政治的信頼を損なうと反発した。台湾側は、国際社会との交流は当然の権利だとする立場だ。高位要人の欧州訪問が稀である背景には、受け入れ国が反発のリスクを慎重に見極める現実がある。
それでも、台湾は退かない。今回の旅程には林佳龍外交部長が同行し、要人との面会や議員ネットワークの強化に動いた。前総統の蔡英文氏がベルリンで登壇を予定するなど、複線的な発信も続く。政府間が難しい局面でも、議会と市民の回路が呼応している。
IPACとは
IPACは、各国議会の超党派議員が中国政策の課題を共有し、法制度や人権、経済安全保障で連携するための国際的枠組みである。政府間の交渉と異なり、立法府同士の対話を通じて政策の方向性を照らすのが特徴だ。年次総会は今年、ブリュッセルで開かれた。
総会の中心企画として蕭氏の演説が据えられ、台湾の現状と民主主義の価値を訴える内容になった。欧州議会の施設で行われたことは、象徴性が大きい。各国政府の公式立場を直接変えるものではないが、議員のネットワークが意思形成に与える影響は小さくない。
IPACはこれまでも、中国による圧力や干渉に関する情報共有や共同声明を重ねてきた。今回の場でも、台湾海峡の安定や経済の連結性に焦点が当てられたとされる。議会外交の積み重ねは即効性に乏しいが、政策の下地を耕す役割を着実に担っている。
空港の通路に残った足音が遠のく。小さな前進が、次の往来を静かに呼んでいる。
