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韓国・慶州でのAPEC首脳会議の余韻が残るなか、台湾代表の林信義氏が2025年11月3日、台北で口を開いた。会期中に高市早苗首相と面会したことへの中国の批判に対し、「ごく普通のこと」と一蹴。握手の一枚をめぐる波紋は、日台中の距離感を静かに映し出している。
握手の一枚が生んだ波紋
薄い朝の冷気が残った慶州の会場で、各国団の動きが重なり合った。2025年11月1日に閉幕したAPECで、高市首相は10月31日と11月1日の両日、台湾代表の林氏と応接、握手する写真を自身のXに載せた。混雑する動線の一角で交わされた笑顔が、瞬く間に政治の文脈を帯びた。
正式な会談は短くも密度があった。台湾代表団の説明では約20分、日本側の発表では約25分。台湾海峡の平和と安定、AIやデジタル分野を含む実務協力、国際機関への有意義な参加など、双方が重ねてきた関心が俎上に載ったとみられる。
これにすぐさま反応したのが中国外務省だった。2025年11月1日、同省は日本側に厳正な抗議を行ったと表明し、台湾当局者との面会や写真投稿は「台湾独立」勢力へ誤った信号だと強く牽制。越えてはならない一線を改めて示した格好である。
林信義氏が語った「ごく普通」
林氏は帰国翌日の2025年11月3日、総統府での記者会見に臨み、会期中の交流を淡々と振り返った。APECは21の経済体が平等の立場で参加しており、首脳や代表同士が言葉を交わすのは「ごく普通」で「合理的」だと説明。多くの首脳と対話したとも語った。
会議の成果として林氏は、半導体やAIなど台湾の強みへの関心が各国から寄せられたと明かし、供給網やデジタル貿易の議論で能動的に情報共有したと述べた。存在感が増しているという手応えを織り込みつつ、任務は「予定どおり完了した」との自負もにじんだ。
台湾の総統が直接出席できないAPECにおいて、特使が各国首脳と肩を並べる場面は、台湾にとって貴重な対外接点である。林氏の「普通」という言い回しには、政治的意味づけを過度に避けつつ、相互交流の既成事実を積み上げたい思惑が透ける。
交錯する反応が映す距離
今回の一連のやり取りは、日台中それぞれの計算を滲ませた。高市首相は就任間もない局面で対台の実務協力を強調し、写真で可視化した。中国は歴史や文書を引き合いに原則を強調、台湾は平等参加の原理を掲げて応じる。言葉の往復は、地域秩序のひびを映す鏡でもある。
会談時間ひとつをとっても、台湾側は約20分、日本側は約25分と伝える。数字のわずかな差は、情報の出所や強調点の違いを物語る。現時点で確認されている範囲では、握手の一枚が示すのは、儀礼とメッセージの綱引きであり、いずれの立場も自らの物語を紡いでいると映る。
慶州の会場から人波が引き、秋の風が残った。写真の笑顔は変わらないが、その裏側で交わされた言葉は重さを増す。次の会場でまた誰かが握手を交わすとき、同じ言葉が「普通」として受け止められるかどうか、それが静かに試されているのかもしれない。
