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9月の総裁選で何を語ったのか。その断片は、これからの政権がどこへ舵を切るのかを映す鏡である。高市早苗氏（64）は3度目の挑戦で存在感を強め、経済と安全保障を一体で語り続けた。投開票は10月4日。本稿は9月の発言から、その骨格をたどり、言葉の背景にある優先順位と作動原理を描き出す。
暮らしと風景を守るという軸
2025年9月22日、所見発表演説会。高市氏は「奈良の女だ」と自己紹介し、ふるさとの気配を帯びた語り口で会場の空気をつかんだ。奈良公園のシカへの被害に触れたとされ、観光のマナーや地域文化を守る視点を前面に出した。生活の肌感に寄り添う価値観が浮かぶ。
19日の出馬会見では、外国製太陽光パネルへの過度な依存に懸念を示したと報じられた。再エネの導入を急ぐだけでなく、調達の安全保障や景観との調和を問う姿勢である。誰に有利なのか。地域の合意形成を重んじる層に響く一方、脱炭素の速度感には揺らぎも生むとみられる。
外国人政策では「不法滞在に徹底対応」と硬軟を織り交ぜつつ、合法的在留者の受け入れ枠を直ちに狭める発想ではないと伝えられた。社会の秩序を守りながら開かれた経済を維持する、その線引きの繊細さがにじむ。価値観の提示が政策の優先度と結び付く構図である。
経済のキーワードは「危機管理投資」
2025年9月24日、日本記者クラブの公開討論会。高市氏は掲げた。「『戦略的な危機管理投資』で、経済成長へ!」。供給網の強靱化や防災、先端技術への官民投資を前倒しし、地政学や物価のリスクを成長のドライバーに変える設計図である。安全と成長を同じ文脈で語るのが特色だ。
同討論会では物価高対策も焦点となり、高市氏は「年収の壁」の引き上げに賛意を示した。家計の可処分所得を押し上げ、労働参加を阻む制度の段差をならす狙いである。減税を含む選択肢を閉じない姿勢もうかがえ、短期の需要下支えと中長期の供給力強化を両立させる絵姿が広がる。
財源については、一部報道では国債増発も選択肢に含める現実主義がにじんだとされる。危機対応の平時化に伴い、将来世代への付け回しと成長力の底上げをどう均衡させるか。偶然か必然か、政策の肝はリスクを恐れずに先に投資する姿勢に集約されると映る。
歴史観と主権で示した輪郭
戦後70年談話を「未来志向でベスト」と位置づけ、追加の政府見解は不要との考えを示したとの報もある。歴史の評価をこれ以上動かさず、実務に資源を振り向ける判断である。賛否が割れる論点だが、内外に向けて軸足の明確さを示す狙いと映る。言葉の選び方に政治の重心が現れる。
領土や追悼のあり方でも姿勢は一貫しているとされる。竹島で「顔色をうかがう必要はない」と強調し、靖国神社参拝についても従来の見解を崩さない構えが伝わった。強いメッセージは抑止力に資する半面、外交上の摩擦も予見される。誰に有利なのか。内外の反応を織り込む胆力が問われる。
