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秋雨の合間、永田町の党本部に静かなざわめきが戻った。2025年10月16日、高市早苗総裁がグラス駐日米大使を迎えたのである。臨時国会の首班指名をにらみ、米政権との呼吸を確かめる節目の面会だ。関税や安全保障をめぐる難題が積み上がる中、日米の窓口がどこまで具体的に踏み込めるかが問われる局面が浮かぶ。
党本部で交わされた40分の握手
16日午後、自民党本部で高市氏とグラス大使は約40分間向き合った。静かな応接室に入った一行は短い握手を交わし、言葉少なに着席したと伝えられる。関係者によれば、大使はまず総裁就任への祝意を示し、同盟運営に関する率直な意見交換へと進んだという。会談の場が官邸ではなく党本部だったことは、政治過程の只中にある自民党の立ち位置を映す。
面会には外務省幹部が同席したとされ、議題は多岐にわたったとみられる。首班指名の行方が流動的な中でも、外交当局の実務は止まらない。省庁の現場が帯同した事実は、同盟の「作業線」がすでに引かれていることを物語る。高市氏は応対の端々に、初会談の段取りと同盟の基調を両立させる視線をにじませたはずだ。
背景には、関税や地域安全保障をめぐる重い論点が横たわる。米国の関税措置への対応や、抑止力・対処力の強化は、この間の政府間協議でも繰り返し取り上げられてきた。外務省が春に公表したグラス大使の表敬記録でも、日米の経済・安全保障課題に関する緊密な連携が確認されている。党本部での対話は、その延長線上にあると映る。
臨時国会と米大統領来日見通し、交錯する時計
臨時国会の会期・日程は最終調整が続いており、首班指名のタイミングが政治日程の要となる。現時点で確認されている範囲では、21日前後の召集観測が広がっている。一方、一部報道ではトランプ大統領が27日に来日する見通しが伝えられ、首相選出の成否と初会談の段取りが同時並行で進む構図だ。政治と外交の時計が同時に刻む、まれに見る圧縮日程と言える。
国会内の数の力学も、面会の意味合いを左右する。自民党は目下、少数与党の立場にあり、首班指名に向けて各党との対話と多数派形成が欠かせない。高市氏は国内の足場固めを進めつつ、対外的には「最初の首脳外交」を滞りなく走らせる必要に迫られる。党本部での意見交換は、内外の課題を一つの線で結ぶための助走と受け取れる。
仮に首相指名が円滑に進めば、来日が見込まれる米大統領との会談は、新政権の優先順位と交渉姿勢を国内外に示す場となる。通商・安全保障・供給網のそれぞれで「まずどこから手を付けるのか」。短い準備期間のなか、双方が持ち寄る論点表の並べ方が、初会談の成否を左右するとみられる。
グラス大使の来歴が示す交渉の視点
グラス氏は春、外務省での表敬を皮切りに、日本側と経済・安全保障の幅広い課題で意見を重ねてきた。4月18日の会合では、米国の関税措置や地域情勢、同盟の抑止力・対処力強化まで俎上に載せ、連携継続で一致した経緯がある。政権中枢からの信頼が厚い実務家として、ワシントンの意図を色濃く映す交渉役という性格がうかがえる。
今回の党本部での対話は、そうした来歴を踏まえた「初動の確認」に近い。政権移行の転換点において、同盟の羅針盤をどこに合わせるのか。関税と安保という二つの重い車輪を、国内政治の多難な調整と同時に回す難しさが際立つ。短い握手の向こうに、日米双方の実務チームが描く新しい作業地図がにじむ。
