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タラップを降りた高市早苗首相の表情は、南アフリカでの長い日程を終えた安堵と緊張をにじませていた。24日夜、G20サミットから政府専用機で羽田に戻ったが、中国の李強首相と交わすはずだった言葉は、ついに一度も発せられなかった。台湾有事を巡る発言で揺れた初の女性首相は、26日に控える初の党首討論に向け、国内外の視線を背に帰国した。
対話なきG20が映した日中の溝
ヨハネスブルクで開かれたG20首脳会議で、高市首相は各国首脳を前に、自由で公正な国際経済秩序と「自由で開かれたインド太平洋」の重要性を訴えた。20カ国・地域が集う場で、日本は海上交通路の安定や法の支配の徹底を呼びかけ、経済と安全保障を一体の課題として示した。とりわけ、インド太平洋構想は中国の海洋進出を念頭に、同盟国や友好国と連携して航行の自由を守る枠組みとして位置づけられている。
一方で、中国の李強首相とは会場で何度もすれ違いながら、言葉を交わす場面は最後まで生まれなかった。高市首相は、台湾有事が日本の存立危機事態になり得ると7日に国会で述べ、中国政府の激しい反発を招いている。存立危機事態とは、他国への攻撃でも日本の存続が脅かされると政府が判断したときに、集団的自衛権の行使が可能になる特別な局面を指す。
広がる対中包囲網と、国内で問われる説明責任
今回のサミットで高市首相は、中国を名指しこそしないものの、その行動を意識した首脳外交を重ねた。インドのモディ首相とは、安全保障と経済協力の両面で連携を深めることで一致し、英国のスターマー首相やドイツのメルツ首相とは、防衛装備や経済安全保障での協力拡大を確認した。資源国である南アフリカのラマポーザ大統領には、重要鉱物を含むサプライチェーン強化への協力を求め、対中依存を減らす狙いもにじませた。
国内では、就任から1か月あまりの新政権に対し、強い対中姿勢を支持する声と、緊張をあおりかねないとの懸念が交錯している。26日に予定される就任後初の党首討論では、与野党の党首が1対1で向き合い、台湾有事発言の真意や、外交・防衛政策全体の方向性について首相に説明を求める場となる。高市首相にとっては、安全保障観と経済政策を一体で語る初めての全国中継の場ともなる。
その一方で、中国は日本産水産物の輸入手続きを停止し、日本が台湾海峡情勢に武力介入した場合には断固とした自衛措置を取ると国連に書簡を送るなど、高市発言への対抗措置を重ねている。G20の会場で言葉を交わせなかった両首脳の距離は、経済や軍事の現場でじわりと重みを増しつつあり、羽田を後にした首相の車列にも、その緊張が静かに影を落としていた。
