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政府は12月2日、国の支出を効率化するための初の関係閣僚会議を首相官邸で開き、税の特例や高額補助金を対象にした「総点検」に踏み出した。取り組みを担う片山さつき財務相は、2026年度予算編成から必要な見直しを反映させる考えを示している。税優遇や補助金に支えられてきた地域や企業にとって、どこまでが「無駄」で、どこからが生活や雇用の土台なのか。痛みの配分が、これからの焦点になる。
現場はどこに影響が出るのか 税優遇・補助金の「総点検」
今回の見直し対象は、租税特別措置と呼ばれる各種の税優遇や、規模の大きな補助金、基金などだ。政府は政策効果が乏しい制度を洗い出し、廃止や縮小を検討するとしている。テレビ朝日などの報道によれば、片山財務相は会合で「政策効果の低い補助金や基金を対象にする」と説明し、歳出のメリハリを強める姿勢を示した。
ただ、こうした制度の多くは国民にとって見えにくい一方、地方自治体の事業や中小企業の投資、NPOの福祉サービスなどを静かに支えてきた。研究開発減税や地方への企業立地補助といった仕組みが縮小されれば、設備投資や雇用計画の前提が揺らぐ可能性もある。2026年度予算から順次見直しが始まれば、現場には短期間での計画見直しを迫られる場面も出てきそうだ。
さらに難しいのは、「効果が低い」の線引きである。数値化しやすい事業は削減の候補になりやすく、長期的な人材育成や地域コミュニティ支援のように成果が見えにくい分野は評価が後回しになりがちだ。財政規律を求める声が強まるなかでも、生活保護、医療、子育てといった基礎的サービスを守る視点と、既得権益の延命を避ける視点をどう両立させるかが問われている。
「日本版DOGE」の仕組みと国民参加の行方
政府は11月25日、内閣官房に「租税特別措置・補助金見直し担当室」を新設し、各府省からの併任職員およそ30人で体制を整えた。米国で歳出削減を担ったとされる政府効率化省（DOGE）になぞらえ、「日本版DOGE」とも呼ばれる。この組織が関係閣僚会議の事務局となり、2027年度以降の予算編成や税制改正に本格的に結果を反映させる構想だ。
片山財務相は、行政事業レビューなど既存の仕組みを活用しつつ、要求段階から査定まで一貫してチェックすると説明している。ブルームバーグ日本語版の報道では、国民から見直すべき補助金や基金を募る意見募集の仕組みを、年内にも動かしたいとの考えも示された。審議会や専門家だけでなく、納税者の声を直接集めることで、「どこを削るか」の優先順位に社会の感覚を反映させる狙いがある。
もっとも、意見募集が本当に判断に影響するかは未知数だ。海外では税優遇の一覧と効果測定を定期的に公表し、議会で議論する国も多いが、日本ではこれまで、財務省内の技術的な検討にとどまりがちだった。今回、新たに連立政権の合意に基づく政治レベルの組織ができたことで、歳出削減は「改革アピール」の場にもなりうる。人気のない分野ほど削りやすい、という逆転現象を避けるには、基準や議論の過程をどこまで公開できるかが鍵となる。
痛みをどう分かち合うか これからの分岐点
政府支出の効率化は、急速に膨らむ国債残高や金利上昇リスクを前にすれば避けて通れないテーマだ。一方で、削減した財源をどこに振り向けるのかという議論は、まだ十分には見えていない。成長投資や防災、子育て支援に回すのか、それとも債務抑制を優先するのか。今回の総点検は、単なる「ムダ探し」ではなく、国家としての優先順位をあらためて選び直すプロセスでもある。
地方の現場からは、制度が毎年のように変われば事業運営の安定性が損なわれるとの懸念も出ている。他方で、特定の補助金に長年依存し、事業の見直しが先送りされてきたケースがあるのも事実だ。与党の一角からの強い要望で生まれた新組織は、こうした利害のぶつかり合いをどう調整するのか。政治主導の色彩が強いだけに、結論が特定の支持層に偏れば、制度全体への信頼を損ねかねない。
最終的に問われるのは、「どこを守り、どこを改めるのか」を巡る説明の納得度だろう。国民にとって身近な事業の継続可能性を確保しつつ、見えにくい形で積み上がった支出を削っていけるのか。日本版DOGEの動きは、静かだが重い問いを突きつけている。
