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東京出入国在留管理局の窓口に、幼い声が助けを求めて届いた。文京区の「マッサージ店」で働かされていたタイ国籍の12歳が自ら相談し、保護に至った。朝日新聞が2025年11月6日に報じ、捜査は人身取引の疑いと実態解明へ進んでいる。見えにくい搾取をどう断ち切るかが問われている。
少女が選んだ扉
少女は6月に母親と来日したが、その後ひとり残された。寝泊まりの場は勤務先の一角で、生活と労働が同じ空間に重なった。頼れる相手は少なく、在留や生活の手続きも分からないまま、店の指示に従う日々が続いた。現場には子どもが大人と同じ責任を負わされる歪みが露出していた。
取材に対し、警視庁関係者は約1か月の間におよそ60人の客を相手にさせられていたと明らかにした。拒む言葉を口にしても止まらなかった場面があったとされ、年齢に対する最低基準を大きく逸脱する扱いが固定化していたことがうかがえる。時間の経過とともに心身の負担は積み重なった。
転機は、知人から入管の存在を聞いたことだった。取り締まりの対象になるかもしれない不安を抱えながらも、彼女は東京の窓口へ足を運び、自らの状況を伝えた。手続きの合間に差し出された給水や通訳の声が、長く張り詰めた糸を少しずつ緩めた。そこから保護につながった。
捜査が追うもの
警視庁は2025年11月4日、店の経営者の男（51）を労働基準法違反（最低年齢）容疑で逮捕し、関係先を捜索した。働かせた期間や指示系統、募集から受け入れに至る経路など、子どもがサービス提供に組み込まれた経緯を丁寧に辿っている。事件は潜在化する人身取引の一端と位置づけられている。
捜査は、性的な行為の強要があったか、別の店舗や関係者が関わっていないかにも広がっている。店内での寝泊まりや移動の管理が事実なら、自由の制限や支配の構図がどこまで及んだのかが焦点になる。現時点で確認されている範囲では、被害の全体像はまだ途上だ。
一方、店の現場では、現金管理や売上の扱いなど、こまやかな実務が被害の見えづらさを支えていた可能性がある。年齢確認の手順や雇用・委託の名目、広告の表現と実態のずれ、周囲の目の届きにくさ。小さな穴が積み重なることで、重大な侵害が隠れていく。捜査の行方が注目される。
見えにくい被害と支える手
人身取引は、被害者が自ら名乗り出にくい。言葉の壁や在留への不安、差別や報復の恐れが、声を閉じ込める。この事件で当局の窓口が保護につながったことは、アクセスしやすい出入口の重要性を示す。相談先にたどり着けるかどうかで、人生の軌道が大きく変わることがある。
法務省の外国人在留総合インフォメーションセンターは、多言語で在留や生活の相談を受け付ける。警察や支援団体と連携できる窓口の存在は、孤立を断ち、初動を支える手すりになる。行政の案内だけでなく、学校や医療、地域で情報が届く仕組みをどう均していくかが問われる。
同時に、需要側の責任をどう可視化するかも課題だ。利用者の特定や処罰の在り方、プラットフォームの監視や広告規制など、線引きの議論は続く。夜の通りを行き交う人の流れが落ち着いたあとも、置き去りにされた心身の回復には時間が要る。静かな支えが、再出発の地面を固める。
