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東京の夜、連なる防犯カメラの映像が一人の留学生の足取りを静かに縫い合わせていった。中国の公安局を名乗る人物に脅され「誘拐されたふり」を強いられた女性のケースで、警視庁はリレー捜査により虚偽を見抜いた。両親からは約3千万円が送金され、特殊詐欺は新たな局面に入っていると映る。
自作自演の「誘拐」をほどいた糸
2025年10月23日、捜査関係者への取材で、東京都内の中国人留学生が自作自演の誘拐を強いられていた事案が明らかになった。中国公安局を名乗る人物から「逮捕状が出ている。取り下げるには金が必要だ」と迫られ、家族に身代金を払わせる筋書きが用意されたとされる。
女性は5〜6月ごろに最初の連絡を受け、言われるまま数十万円を支払ったという。さらに8月には「誘拐されたように装え」との指示が届く。女性は顔の一部を赤く塗り、暴行痕のように見せかけ、自ら体を縛って画像を撮影した。画像は中国に住む両親へ送られた。
両親は約3千万円を振り込み、日本の知人を通じて異変を知らせた。警視庁は防犯カメラの映像を時系列に結ぶリレー捜査で足取りをたどり、強制的に連れ去られた形跡がないことを確認したとみられる。誘拐は虚偽で、背景に特殊詐欺の枠組みが見えてきた。
広がる「捜査当局」なりすましと狙われる留学生
中国公安局など捜査当局をかたる手口は、2023年ごろから国内で相次いでいる。留学生の不安や在留資格への懸念に付け入り、罰金や供述録取を装って連絡し、通話アプリやビデオ通話で心理的に追い込む流れが共通している。今年は少なくとも3人が被害に遭ったとされる。
手口は日本人も標的にしており、警察官や検察官を名乗る偽の連絡でキャッシュカードや現金を引き出す事例が続く。警察庁が公表する特殊詐欺の統計では、2024年の認知件数は2万1043件、被害額は約718億円に達した。被害は都市部を中心に広がっている。
国際電話や番号偽装、クラウド収納の画像送信など境界のない通信環境が悪用される。捜査関係者は「手口の源流は海外にある可能性が高い」とみており、国内の受け子や運び役を巻き込む形で実行される構図も浮かぶ。虚偽誘拐はその延長線上に位置づく。
被害を止めるために——合言葉と「待つ勇気」
最初の一報で慌てないことが、被害を断ち切る第一歩になる。名乗りや所属、事件番号の確認を求め、折り返しは公表窓口に限定する。金銭や口座情報、顔や体の画像の送信要求には応じない。音声や文章の不自然さを家族で共有し、合言葉を決めておくのも有効だ。
不安を感じたら、ためらわず警察相談専用窓口#9110に連絡し、事実関係の確認を依頼する。通話をつないだままATMや送金操作を促す指示には、必ずいったん切って第三者に相談する「待つ勇気」を置いてほしい。証拠保全のため通話記録やメッセージも保持する。
留学生にとって言語や制度の壁は高い。学校や地域の支援窓口と普段から連絡経路を持ち、緊急時に頼れる相手を可視化しておくことが防波堤になる。家族は海外からの連絡でも冷静に照合し、単独で送金を決めない。小さな違和感を手掛かりに、被害は防げる。
