本サイトの記事や画像はAIが公的資料や報道を整理し制作したものです。ただし誤りや不確定な情報が含まれることがありますので、参考の一助としてご覧いただき、実際の判断は公的資料や他の報道を直接ご確認ください。
朝の薄曇りの空の下、工業地帯の門を出入りするトラックの音が途切れない。そんな現場の空気とは裏腹に、2025年10月22日、兵庫県警が東芝グループの姫路東芝電子部品に関わる営業秘密流出事件で、3人を不正競争防止法違反(営業秘密領得、開示)の疑いで再逮捕したと一部報道が伝えた。半導体部材の図面データが海外へ渡った可能性が示され、日本の製造現場を巡る経済安全保障の脆さが浮かぶ。
見えない図面が動いた日
現時点で確認されている範囲では、再逮捕されたのは元社員の無職・浅田賢一(57)、中国籍の会社員・滕春雨(47)、無職・新直樹(55)の3人とされる。3人は共謀し、2023年3月3日から4日にかけて、半導体チップを固定する電子部品である「半導体用リードフレーム」に関する金型図面データを、浅田容疑者のメールに送信した疑いが持たれている。データはその後、中国の精密機械メーカーに渡ったとみられる。
半導体の心臓部に近い工程で使う金型図面は、製品の精度や歩留まりを左右する設計の核だ。たとえファイル「1点」でも、蓄積されたノウハウが凝縮されている場合がある。情報の持ち出しは、製造リードタイムや品質保証の仕組みまで見透かされることにつながりかねない。日本の部品産業が積み上げてきた細部の競争力が、データの一送信で揺らぐ構図が透けて見える。
兵庫県警は経済安全保障の観点から、企業・研究機関の技術情報保護を呼び掛けてきた経緯がある。図面のアクセス権限、外部送信の監視、業務用と私用の端末分離など、基本の徹底が改めて問われる局面だ。今回の再逮捕は、単なる内部不正の枠を超え、国際的なサプライチェーンの節点で何が生じ得るかを示唆したと映る。
利益の“通り道”が映す構図
一部報道によれば、浅田容疑者の妻が代表取締役を務めるコンサルティング会社が仲介役として登場する。同社を介し、図面を受け取ったとされる中国の精密機械メーカーから、姫路東芝電子部品に対してリードフレームとは別製品の納入が行われ、2022年12月から2023年10月にかけ、同コンサル会社に中間マージンとして約700万円が流れたという。資金の“通り道”が、情報の“通り道”と重なる。
製造現場では、コスト圧力や短納期に押され、サプライヤーや仲介会社が幾重にも連なる。透明化が追いつかなければ、利益相反やガバナンスの隙が生じやすい。役員や従業員と取引先の関係、利益配分の実態、紹介手数料の相場感といった地味な点検が、情報保全の実効性に直結する。紙の契約書より、実際の権限と決裁の流れを洗い直すことが肝になる。
現時点で、図面データが実際の製造に用いられたか、競合製品に影響が出たかなどは明らかでない。一方で、データの所在とアクセス履歴、送受信の経路、保存媒体の取り扱いなど、デジタル・フォレンジックの基本は積み上げが効く分野である。企業側の内部監査がどこまで機能していたか、第三者による検証の有無を含め、今後の説明が注目される。
産業を守るために何が必要か
不正競争防止法は、企業が管理する営業秘密の不正な取得・使用・開示を禁じる法律である。営業秘密は一般に、秘密管理性、有用性、非公知性の三要件が基礎とされる。設計図面や製造条件、検査の閾値といった技術情報は、要件を満たせば保護の対象になる。今回の捜査の焦点は、どこまで秘密管理が実効的で、何が故意に持ち出され、どの範囲に開示されたかに置かれるとみられる。
警察は経済安全保障の観点から、海外企業・研究機関との接点が増える現場に注意を促している。具体的には、機微情報へのアクセス権限を最小化し、多要素認証と持ち出し制御を併用すること、社外クラウドや個人メールへの送信を原則禁止し、例外運用をログで厳格管理することが基本だ。加えて、取引先の実在性や実質的支配者の確認、仲介会社の選定理由や手数料水準の検証も欠かせない。
事件の全体像はこれから輪郭を帯びる。送検後の処分や、企業側の再発防止策、公的機関による支援メニューの活用状況が次の論点になるだろう。技術は人が守る。機械的なルールだけでなく、通報のしやすさや相互牽制の文化づくり、退職・転籍時の誓約と教育の運用まで、地に足のついた仕組みが問われている。静かな工場の音の向こうで、守るべきものの重さが増している。
